研究領域 | 分子自由度が拓く新物質科学 |
研究課題/領域番号 |
23110713
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研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
宮崎 章 富山大学, 大学院・理工学研究部(工学), 准教授 (40251607)
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キーワード | 分子電導体 / 分子磁性体 / 有機金属錯体 / 二量化反応 / 交換相互作用 / 熱励起三重項 |
研究概要 |
有機金属錯体Me3TTF-C≡C-FeCp^*dppeは鉄部位で1段階、引き続いてTTF部位で2段階の酸化還元挙動を示す。化学酸化により単離されたモノカチオン塩、ジカチオン塩においては、鉄部位とTTF骨格をつなぐ架橋部C≡C三重結合の伸縮振動が中性分子・モノカチオン・ジカチオンと酸化が進むに従い低波数側にシフトすることを見出した。MossbauerスペクトルおよびDFT計算の結果と併せて、モノカチオン種の極限構造としてアセチレン型(-C≡C-)にクムレン型(=C=C=)の寄与が加わった結果、酸化によりFe3+上に生じた不対電子がTTF部位にまで非局在化していることが明らかになった。一方この有機金属錯体のDMF溶液に過剰の酸化剤を作用させると定量的にダイマージカチオンが得られた。化学酸化によりTTF骨格メチル基のC-H結合が活性化され、弱塩基であるDMFによる水素引抜きが起こり、二量化・脱水素を経てダイマーが得られたと推察される。単結晶X線結晶構造解析の結果は、Fe-C原子間に二重結合を有するクムレン型の結合様式を示している。この塩は固体では非磁性であるが、凍結溶媒中のESRスペクトルでは熱励起三重項状態が検出された。結晶中ではダイマーの平面性により、スピン間にπ電子系を介した強い反強磁性的交換相互作用が働くが、溶液状態では分子内配座変化によりこの相互作用が弱まり、熱励起が可能になったものと考えられる。このダイマーは溶液中で中性状態からヘキサカチオンまで7段階のレドックス挙動を示す。興味深いことにジカチオンにTHF中で強塩基のtBuOKを作用させても架橋C-C結合部位の脱水素は起こらず、ダイマーモノカチオン塩が定量的に得られた。ESRスペクトルのg値からは、このモノカチオンのスピンはTTF部位を含んだ有機架橋部位に主に存在することが示唆される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当研究開始時に見出していたTTF系ドナーを配位子とした有機鉄化合物の二量化反応については、その反応生成物の多段階的レドックス挙動や各酸化状態の構造・スピンの分子内分布状態などにつき、当初の計画以上の知見を得ることができた。一方で配位子の化学修飾などによる物質開拓の面では遅れがみられるので、これらを相殺して上述の区分とした。
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今後の研究の推進方策 |
TTF系ドナーを配位子とした有機鉄化合物の二量化反応については、これまで得られたデータを取りまとめ研究発表を行う予定である。一方物質開拓の面では、現在検討を行っているTTF系ドナーに2つの有機鉄ユニットを挿入した系の合成を完了するとともに、比較的容易に合成が可能であるTTF系誘導体を用いることで物質の幅を広げていく予定である。
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