研究領域 | 分子自由度が拓く新物質科学 |
研究課題/領域番号 |
23110716
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
山下 穣 京都大学, 理学研究科, 助教 (10464207)
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キーワード | 磁性 / 低温物性 / 幾何学的フラストレーション |
研究概要 |
幾何学的フラストレーションのある分子性物質におけるスピン液体相の詳細を明らかにするためにその磁気励起を磁気トルク測定によって調べた。本年度はフランスのグルノーブルにある強磁場施設を用いて50mK,32テスラまでの極低温強磁場測定を行った。その結果、量子スピン液体の候補物質であるEtMe3Sb[Pd(dmit)2]2において磁化がほぼ線形な磁場依存性を示すことが分かった。最低温の30mKにおいてもほとんどゼロ磁場から32Tの最高磁場まで異常のない磁化の増加が観測された。これは非常に強く相互作用しあったスピンが磁気励起にギャップのない量子スピン液体状態にあることを示している。ギャップのない磁気励起は磁気秩序した物質の性質であるから、磁気秩序のない量子スピン液体でこのような励起が観測されたのは驚きであった。さらに高精度の測定を行うため物質・材料研究機構(NIMS)の強磁場施設を用いた磁気トルク測定をNIMSの宇治グループの協力を得て行った。その結果、ほぼゼロ磁場からの磁化の線形な増加を非常に高精度に観測することに成功した。さらに、重水素置換することによって物質の性質を少し変えてもこのギャップレスの磁気励起は安定に存在することを見出した。磁気秩序相と量子スピン液体相を考えた場合、そのどちらに属するかによって磁気秩序か磁気励起に対するギャップがあると考えるのが今までの常識であった。そのため、今回明らかになった磁気秩序と磁気励起に対するギャップの両方が存在しないという実験事実を説明するためには、二つの異なる相の間にある量子臨界点にその物質がたまたま位置していたと考えざるを得ない。ところが、重水素置換した試料においても同様の性質が観測されたことから、今回の実験結果は今まで考えられていた描像とは異なる新奇な量子臨界相が量子スピン液体に存在していることを示唆する実験結果であるといえ、今後のさらなる発展が期待できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23年度の当初目的であった、AFM用のカンチレバーを用いた測定は1K程度までを予定していたが、グルノーブルやNIMSの装置を用いることでより低温までの測定も行うことができた。また、トンネルダイオードを用いたトルク測定も準備を始めることができたので、おおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は、今までの測定をさらに進めて、三角格子のひずみをわずかに変えた試料の測定を行う。このことで、フラストレーションが変わった時のスピン液体の振る舞いが明らかになるはずである。このためには極低温までの磁気トルク測定を複数の試料について行う必要があるから、トンネルダイオードを用いた磁気トルク測定素子を完成させることで、より効率的な測定を行う。
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