公募研究
本研究は、圧力下、磁場下で使用可能な極微サイズのチップセンサーを用いた交流型の熱測定手法、装置を整備し、分子性固体の電子状態に関する研究を行う目的で計画された。平成23年度は極低温で使用可能な酸化ルテニウムチップ温度計κ-(BEDT-TTF)_2Cu(NCS)_2,κ-(BEDT-TTF)_2Cu[N(CN)_2]BrとそのBEDSe-TTFの置換体の超伝導転移の熱力学的な特性を調べ、熱異常の圧力変化、磁場変化を系統的に議論した。その結果、このκ-系超伝導体では、圧力印加によってTcが抑制された状態でもしっかりした熱異常が検出されるため、超伝導は加圧下でもバルクで生じていることが明らかになった。さらにCu(II)を含む層状物質であるCu_2(OH)_3(CH_3COO)H_2Oの高圧下熱測定を行うことによって、この物質が1.2GPa以上の加圧下で圧力誘起強磁性を示すことを圧力下熱容量の磁場依存性の評価から見出した。二次元層内の磁気相互作用を解析することによって、DM相互作用によるスピンキャントより強磁性発現が生じることを明らかにした。高温領域での測定を進めるため、温度センサー酸化をPt薄膜チップに換えた装置の開発も並行して進めた。交流ブリッジによる検出方法と高温領域での温度変化についての精度を上げることによって、1.6GPaまでの加圧下は30-200Kの温度域での測定が可能となった。圧力印加によるヒステリシスなども観測されないため低圧領域でも使用が可能であることが判明した。この装置を用いて,2mgのFe_3O_4試料を用いた加圧下での測定を行ったところ常圧125K付近に存在する非常にシャープな相転移ピークが加圧によってブロード化しピークそのものが抑制されることを見出した。
2: おおむね順調に進展している
年度当初に掲げた装置開発に関する計画は、概ね予定通りに進んでいる。高圧下での超伝導ピークの検出、Fe_2O_3等の成果は学会や国際会議で発表し、論文として投稿している。
高圧下での測定感度をあげ、より多様な物質に展開することが次の目的である、特に超伝導体については比較的大きな単結晶の作成が可能なκ-(BEDT-TTF)_4Hg_<2.89>Br_8の圧力下での超伝導ピークの変化を検出すること、Cu_2(OH)_3(CH_3COO)H_2Oにおけるエントロピーを含めた定量的な議論が次年度は必要になると思われる。そのためには、バックグランドの半定量的な評価が必要になりその評価方法を次年度確立する予定である。
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