研究実績の概要 |
平成24年度は前年度、温度領域の拡張をはかった高圧下熱測定装置を用いて、有機超伝導体k-(BEDT-TTF)2X系の超伝導転移に関する実験を行うとともに、中性‐イオン性転移を示す交互積層型の分子性錯体であるTTF-CAの加圧下熱容量測定を行った。共昇華法によってTTF-CAの単結晶を作成し、まず、数ピースを用いて緩和法による測定によって83Kに潜熱を伴う一次相転移があることを確認した。その後、高圧セルに導入し圧力下の熱測定を行うことで、以下の3点を明らかにした。1. 温度掃引による測定によって相転移が1次転移特有の弱いヒステリシスが存在するが、0.25GPa 程度の加圧までは相転移温度とヒステリシスの幅は殆ど変化しない。2. 0.25GPa以上の加圧によって相転移は1次転移から2次転移へ変化し、同時にピーク温度は上昇する。3. 0.45 GPa程度を超えると転移はブロードになるが同時に転移点周辺でのエントロピーの寄与が大きくなる。これらのことは、弱圧での中性‐イオン性転移は格子の変調を伴う構造転移としてあらわれるが、加圧状態ではスピンや電荷の自由度を含めた短距離的な転移に変化することを示唆している。年度の後半は、量子スピン液体の性質を示すEtMe3Sb[Pd(dmit)2]2系において、カチオン部をMe4Sb, Et2Me2Sbと部分置換した系でのγ, βなどの熱力学的パラメターの評価を行い、スピン液体相と周辺相との相関係を議論した。液体相は低温で量子力学的な相として存在するとともに、スピン状態が格子の自由度と強く結合する可能性を指摘した。 研究全体を通して、分子の各種のミクロの自由度が、相互作用を通してあらわれる分子性導体について、圧力を中心とした外部パラメター変化による熱物性の評価が、極めて有効であることを示すことが出来た。
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