研究領域 | 分子自由度が拓く新物質科学 |
研究課題/領域番号 |
23110719
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
持田 智行 神戸大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (30280580)
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キーワード | 相転移 / 電荷移動錯体 / 磁性 |
研究概要 |
電荷移動錯体は、多様な相転移現象の舞台として有用である。これらの物性研究に新展開を拓くため、本研究では多様な金属錯体系電荷移動錯体の開発を進めている。本年度は第一に、フェロセン系ドナーに対して種々のキノン系アクセプターを組み合わせた錯体の開発を進めた。構成分子の酸化還元電位、組成、次元性、電荷移動吸収の関係を考察することで、フェロセン系物質に関する中性・イオン性相図を作成した。キノン系錯体では主に中性錯体が得られたが、DCNQI誘導体を用いた場合にはイオン性錯体のみが得られた。このほか、関連するフェロセン系錯体の相転移挙動の解明および構造の評価を行った。 本年度は第二に、ビオロゲン系カチオンと金属ジチオレン系アニオンを組み合わせた錯体を開発した。得られた結晶は、いずれも交互積層型構造を持つ二価錯体(D2+A2-型錯体)であった。なかでもCu(II)をアニオンに含む塩においては、アニオン間で弱い強磁性的相互作用が認められた。 第三に、固相反応を利用した錯体合成を進めた。ここでは代表的な有機導体であるETのトリヨージド塩の合成にミリング法を適用した。ETとシリカナノ粒子をボールミリングすることで、ETをシェル層に含むコアシェル型ハイブリッド粒子を得た。この粉体にヨウ素をドープすることで、目的の塩が得られた。塩の一部はバルク成分として粒子間に存在し、金属-絶縁体転移を示したが、残りはアモルファスとしてハイブリッド粒子のシェル層に含まれていた。上述のフェロセン・キノン系錯体についても固相反応による錯体形成を検討した。また、アルカリTCNQ塩の合成に固相反応を適用し、この塩がヨウ素吸脱着能を持つことを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、金属錯体を用いた電荷移動錯体を合成するものであり、研究計画に挙げた3項目について、いずれも想定以上の成果が得られた。当初の計画を若干変更し、難度の高い実験を後回しにしたが、このことによって研究がより進展し、フェロセン系錯体の興味ある相転移現象などを複数見出すことができた。
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今後の研究の推進方策 |
ビオロゲン・金属ジチオレン系錯体については、これまでに得られた錯体がすべて2価錯体であるため、より一価錯体に近い錯体の合成を進める。その結果をもとに、価数相図を作成する。固相反応については、アルカリTCNQ塩の固相での合成、および物質吸脱着性について、今後重点的に検討を進める。アルカリ金属以外の遷移金属TCNQ塩の固相反応性についても検討する。
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