研究概要 |
平成23年度は、分子性磁性物質を対象として構造的ならびに電子的な分子内自由度が連携した磁気現象を探索するために、1,3,2-Dithiazole基を有する有機ラジカルや、金属ジチオレン錯体の合成、構造解析、磁気測定を行った。 1.環状チアジルラジカル誘導体BBDTA・AuBr_4の磁気相転移現象 1,3,2-Dithiazole誘導体BBDTA^+はπ共役系を非局在化した1個の不対電子と+1価の正電荷を有するラジカルカチオンである。本研究では対アニオンとしてAuBr_4^-を有する塩について検討を行った。BBDTA・AuBr_4は二次元正方格子磁気ネットワークを形成しており、44K付近で反強磁性秩序転移またはスピンギャップ転移に似た磁気異常を示す。この物質の基底状態ならびに低温相の構造を明らかにした。 2.新しい金属ジチオレン錯体の合成研究 近年、いくつかの遷移金属ジチオレン錯体において、興味深い電子物性が報告されている。それらの錯体では、配位子に強い分子間相互作用を生じる置換基が含まれているという共通の特徴がある。そこで本研究で強い分子間相互作用を持つことが可能な、新しいジチオレン配位子1,3,2-Dithiazole-4-thione-5-thiolate(dttt_-)を用いて、様々な金属錯体の作成と物性測定を試みた。種々の金属塩(二価金属イオンとしてCu(BF_4)_2、MnCl_2、CoCl_2、NiCl_2、PdCl_2、PtCl_2、三価イオンとしてCrCl_3、FeCl_3、CoCl_3)とを有機溶媒中で混合し、粉末として得た。得られた粉末を二硫化炭素に再溶解させ、蒸発速度をコントロールしたところ、CoとCrの誘導体について単結晶を得ることに成功した。
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