研究概要 |
本研究では,多重機能性金属錯体の開発とその多重機能性の制御の視点から,一次元金属鎖による金属伝導性とセミキノナトラジカル配位子のπスピンによる強磁性,さらに,原子価互変異性に基づく分子双安定性を利用した多重機能性の制御が可能な一次元金属-ジオキソレン錯体の開発を目指している. 23年度は,(1)金属イオンとしてイリジウムイオンを用いて一次元イリジウム(I,II)-セミキノナト/カテコラト錯体の合成・結晶化について検討を行った.クロロ基やメトキシ基を導入した数種類の3,6-ジ-t-ブチル-1,2-ベンゾセミキノネートを配位子に用いてイリジウム錯体の合成を行ったところ,数種類の黒色針状晶が得られた.X線回折実験からIr-Ir距離は3.0Å以下であり,混合原子価状態であることが示唆されたが,いずれの結晶もX線回折実験途中で回折X線が観測できなくなり,結晶構造解析を行うことができなかった.(2)一次元混合原子価ロジウム(I,II)-セミキノナト/カテコラト錯体を得る目的で,電子吸引性置換基を導入した配位子を合成し,錯体の合成・結晶化を行ったところ,3,6-ジ-t-ブチル-4-ニトロ-1,2-ベンゾセミキノネート(3,6-DBSQ-4-NO^-_2)を配位子に用いてロジウム錯体が得られた.X線結晶構造解析や電子スペクトル測定から,この錯体はロジウム(I)-セミキノナト錯体[Rh(3,6-DBSQ-4NO_2)(CO)_2]_∞(1)であることがわかった.この錯体では強磁性相互作用が観測された.(3)一次元鎖内での強磁性と低温で2段階の磁気異常を示すキラル一次元ロジウム(I)-セミキノナト錯体[Rh(3,6-DBSQ-4,5-(2R,4R-PDO))(CO)_2]_∞(2)と[Rh(3,6-DBSQ-45-(R-1,3-BDO))(CO)_2]_∞(3)について,非線形交流磁化率の解析を行った.錯体3では磁化が小さいために信号強度が弱く,2ω,3ω成分は観測されなかったが,錯体2では2ω,3ω成分が観測された.このことから,この磁気異常では,スピンが鎖内でキャントした状態で凍結し,さらに,鎖間で安定な状態へスピンが再配列することで二段階の磁気異常を示すと考えられ,極性を持つ結晶構造を反映していると考えている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究実績の概要の(2),(3)では,おおむね順調に進展している.(1)の一次元混合原子価イリジウム(I,II)-セミキノナト/カテコラト錯体の合成・結晶化では,目的物と考えられる錯体の結晶化に成功している.しかしながら,得られたイリジウム錯体は熱力学的に非常に不安定であるため分解しやすく,構造決定や物性の評価を行うことができていない.
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