母子乖離操作により慢性ストレスを付加したマウスを成体の時点で研究した結果、以下の知見を得た。 雄の母子乖離マウスにおいて、(1)母子乖離マウスでは体性感覚野における神経活動が亢進しており、それに相関して知覚閾値の低下がみられた。(2)同部位ではグルタミン酸の過剰放出が起こっていた。(3)ホームケージにいるときでもストレスホルモン(コルチコステロン)の分泌が増加していた。(4)急性ストレスの追加負荷により、通常みられるコルチコステロンの一過性上昇が、母子乖離マウスでは消失していた。一方、同時に計測したグルタミン酸の濃度は、母子乖離マウスで顕著に増加していた。(5)急性ストレス負荷後、対照群に比べ一部のグルタミン酸受容体の発現が過剰増加していた。(6)同マウスをin vivo imaging法により生きたまま観察すると、マイクログリアの動態が変化していることが分かった。以上の結果は2報の論文として執筆中である。 また、雌の母子乖離マウスにおいて(1)母子乖離マウスは妊娠・出産に至る割合が低下し、かつ、仔育てを失敗する(育児放棄により仔が死亡する)割合が増加していた。(2)母子乖離マウスを母親にもつ仔では、体重が減少傾向にあり、血中コルチコステロン濃度が有意に増加していた。(3)母子乖離マウスを母親にもつ仔の行動パターンに異常が見られた。(4)(1)の知見は世代間で伝搬する傾向があり、母子乖離マウスの娘や孫でも妊娠・出産率の低下や育児放棄率の増加がみられた。以上の結果は1報の論文として執筆中である。
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