研究領域 | 動く細胞と場のクロストークによる秩序の生成 |
研究課題/領域番号 |
23111505
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
西山 功一 東京大学, 大学院・医学系研究科, 助教 (80398221)
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キーワード | 発生・文化 / 血管新生 / ライブイメージング / 細胞運動 / 定量評価 / 数理モデル |
研究概要 |
本年度は、血管内皮細胞が樹状様のネットワーク構造をとる過程の細胞動態とその制御メカニズムに関して、新しい重要な知見が得られた。具体的には、出芽的血管新生過程を模す培養モデルにおいて、血管内皮細胞動態を観察した結果、血管の伸長や分岐形成を担う細胞動態を捉えることができ、その動態はこれまでの想定以上に極めて複雑であることが分かった。細胞の相対的位置関係を経時的に変化させることで細胞が位置的に混ざり合いながら(細胞の混ざり合い現象)、しかし全体としては秩序だった樹状形態をとった。また、これまで特別な細胞と位置づけられてきた先端細胞に関しても同様に入れ替わりが起きていることも見いだした(先端細胞の入れ替わり現象)。さらに、マウス網膜血管新生において同様の現象が生じていることも分かった。また、薬理学的実験、細胞動態と血管形態の定量解析から血管内皮細胞動態を支配する分子実態の一端を明らかした。血管新生促進因子VEGFは、血管内皮細胞の平均速度の増加や方向性運動の質的な向上、さらに先端細胞の遊走距離の増加を介して、血管伸長に対して促進的に作用していること、VEGFによる血管伸長の一部は、D114-Notchシグナルを介した内皮細胞間相互作用により負に制御されて、また内皮細胞-壁細胞間の相互作用により正に制御されていることが分かった。さらに、得られた細胞動態の特性に基づき、血管伸長現象を説明できる基礎となるモデルを新しく構築した。細胞の運動性と先端細胞の挙動を規定する簡単な規則をモデルに組み込むことで、血管伸長とその際の細胞動態をある程度再現できることが解ってきた。以上の成果により、今後、個々の血管内皮細胞のふるまいが血管の"かたち"へ、いかに繋がるのかを統合的に理解できると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の当初の研究計画の中心に掲げていた、1)血管新生モデルにおける血管内皮細胞動態の同定と定量的評価、2)実際の細胞動態に基づく数理モデルの構築、3)薬理学的実験によるモデルの検証と修正、その過程における血管新生メカニズムの解析に関しては十分達成されている。次年度に使用予定の遺伝子改変マウスも、現在個体を樹立中であり、当初の計画は達成されている。
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今後の研究の推進方策 |
今後、本年度の成果を基礎に、血管内皮細胞動態の制御メカニズム、特に血管内皮細胞-壁細胞間相互作用による制御とその分子実態に関して、現在準備中もしくはこれから樹立する遺伝子改変マウスを使いながら、タイムラプスライブイメージング、コンピュータによる定量解析、マウス個体での検証、薬理学的介入、および数理生物学的手法を用いた検討により、これまでと同様に解析する。また、実細胞動態に基づき、血管伸長過程を説明する新たなモデルを提示する。
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