哺乳類胎児肺は、枝分れ構造を形成する。この枝分れ構造の形成時に、肺の上皮はシート状の組織構造を保ったまま移動する。細胞の運動に使われる遺伝子群と、細胞シートの組織構造を保つために使われる遺伝子群は共通のため、どのようにして細胞が上皮シートのまま運動するのかは謎なままであった。我々はまず、上皮の先端が間葉となって残りの組織を牽引している可能性を考え、上皮間葉転換のマーカーで発生段階の胎児肺の免疫染色を行った。しかし、枝分れ構造を形成している最中の肺の上皮でも、上皮間葉転換を示す聴講は全く見られなかった。次に我々は、生体内での肺の上皮組織を単離した肺上皮細胞の一部の細胞骨格を可視化することで、細胞の基底膜側で実際には葉状仮足が伸びて動いていることを見いだした。さらに、伸長する肺上皮の周辺部でのゲルの変形を観察することで、伸長する肺上皮の側面が実際には力学的な推進力を生み出していることを明らかにした。 また、この運動を誘導する細胞外のシグナル因子であるFGF10の蛍光蛋白を作製し、その拡散ダイナミクスを Matrigel 内、組織内で計測した。Matrigel 内での拡散はモデルで予測しているのとほぼ同じ早さだったが、生体の間葉組織内ではFGF10はほとんど拡散しないことが明らかになった。生体内の場合、FGF10の分布はタンパク質とmRNAでほとんど変わらないことがわかったため、FGF10そのものの拡散ではなく、一つ上流の因子の濃度勾配によって形態形成が起こることがわかった。 これらの実験および数理解析は、肺の枝分れ形成の基本メカニズムの解明という意味で科学的な意義が大きい。
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