研究領域 | 動く細胞と場のクロストークによる秩序の生成 |
研究課題/領域番号 |
23111518
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研究機関 | 奈良先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
稲垣 直之 奈良先端科学技術大学院大学, バイオサイエンス研究科, 准教授 (20223216)
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キーワード | 脳・神経 / 発生・分化 / 神経科学 / システムバイオロジー / 生体生命情報学 / 対称性の破れ / Shootin1 / Netrin-1 |
研究概要 |
神経細胞は1本の軸索と複数の樹状突起を形成して極性を獲得する。「対称性の破れ」は神経極性形成の最初のステップである。我々はこれまでに、定量的なライブイメージングと数理モデルを組み合わせて、培養神経細胞がShootin1により自発的対称性の破れを引き起こす分子機構を明らかにした。神経細胞は、非対称な細胞外シグナルが存在しない培養条件下ではランダムな方向に軸索を形成するが、脳組織内においては特定方向に整然と軸索を伸ばす。本研究は、Shootin1が引き起こす神経細胞の自発的対称性の破れに方向性をという拘束を与える細胞外シグナルを同定し、内在性の対称性の破れの機構と非対称な細胞外シグナルとのクロストークを明らかにする。さらに、細胞内Shootin1のゆらぎが、神経細胞の対称性の破れと極性形成に積極的に活用される可能性を検証する。 本年度は、Shootin1のリン酸化による軸索形成促進の分子メカニズムを解析した。これまで、Shootin1は「クラッチ分子」として成長円錐で重合・脱重合を繰り返すアクチン線維と細胞接着分子L1とを連結することにより突起伸長のための牽引力を生み出すことが解っている。また、最近、培養海馬神経細胞が軸索誘導因子Netrin-1の濃度勾配に応じて方向性を持った対称性の破れを引き起こすことが報告されている。本研究では、Netrin-1刺激がリン酸化酵素PAK1を活性化しShootin1をリン酸化することが解った。また、PAKIによるShootin1のリン酸化は、Shootin1とアクチン線維との相互作用を強めることでアクチン線維とL1との連結を強めて、突起伸長のための牽引力を増強させた。以上の結果より、神経細胞の自発的対称性の破れに方向性を与える細胞外シグナルNetrin-1がPAK1によるShootin1のリン酸化を介してクラッチ効率を高め、軸索形成促進を引き起こすことが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでに、細胞内シグナルが成長円錐でクラッチ効率を変化させることにより軸索の伸長を制御するという可能性が示唆されていたが、その分子実態は不明だった。本研究で軸索の伸長のためのクラッチ調節の分子実態が初めて明らかとなったため、研究は順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、自発的およびNetrin-1シグナルから拘束を受けた対称性の破れへのShootin1のゆらぎの積極的活用の解析を重点的に行う。応募者らの自発的対称性の破れを起こすモデルニューロン(Toriyama et al,Mol Syst Biol 2010)に、Netrin-1シグナルとのクロストークを導入した新たなモデルニューロンを構築する。まず、Shootim輸送のゆらぎのStochasticityを様々に変化させて、自発的対称性の破れにどのような影響が見られるかを解析する。次に、モデルにNetrin-1の濃度勾配を付加して、Shootin1輸送のゆらぎのStochasticityを様々に変動させて対称性の破れの発生頻度とその方向にどのように影響を及ぼすかを解析する。特に、ゆらぎのStochasticityがどの様な条件で、モデルが小さな濃度勾配のもとで正しい方向に軸索を伸ばすことに成功するかという点に注目して解析する。
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