公募研究
自律的な秩序形成機構は、生き物の形作りや生物時計だけでなく、細胞運動においても見られる生物の大きな特徴である。アメーバ運動では、細胞各所で起きる伸展と収縮が細胞全体で統合されて初めて前後極性という秩序が決まる。我々はこれまでに、細胞性粘菌アメーバを用いて、細胞が地面に発揮する牽引力の反作用を細胞自身が受容して、その大小を判断し、アメーバ運動の動力源となるミオシンIIの再配置を行うことで、自律的に前後極性を作り出す可能性を見いだした。研究全体の目標は、(1)細胞性粘菌を使って、自分自身の牽引力による細胞運動の前後極性決定メカニズムの解明すること、(2)このメカニズムが細胞性粘菌だけではなく、好中球(白血球)や魚類ケラトサイトなど、アメーバ運動する他種の細胞にも普遍的なメカニズムであることを証明することである。本年度、(1)については、(1a)どのような原理で牽引力が前後極性に変換されるのか、そのモデルを考えること、及び、(1b)そのモデルの分子実態を検討している。(1a)では、共同研究者(奈良先端大 作村諭一博士)と細胞と基質との摩擦状態の変化によるモデルを考案し、現在、論文投稿準備中である。(1b)では、共同研究者(産総研 上田太郎博士)との実験で、アクチンフィラメントの形状変化がミオシンIIとの親和性を変化させることを見出した(下記論文)。(2)に関して、魚類ケラトサイトも、細胞性粘菌同様、基質から受ける力によって運動方向を制御させられることを見出した。研究過程で、細胞内分子を染色し観察するための新規エレクトロポレーション装置を開発し、特許出願に至った。
2: おおむね順調に進展している
細胞性粘菌アメーバを使った牽引力による前後極性形成の数理モデルの原型は、すでに完成させることができた。他種の細胞であるケラトサイトでも、牽引力と前後極性形成に関連があることを突き止めることができた。
今後、細胞性粘菌アメーバを使って、牽引力と分子の集積の関係など定量的なデータに基づくモデルの改善で、より一般性のあるモデルを作成する。好中球のアメーバ運動について、細胞性粘菌と同様、自己の牽引力による前後極性形成機構が働いているか検討する。魚類ケラトサイトや好中球ではGFPの導入が容易でないため、細胞内分子動態を観察することが難しい。23年度に開発した新規エレクトロポレータを使って、アクチンやミオシンIIなど細胞運動に必須な蛋白質の効率的な動態観察を目指す。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (4件) 備考 (1件) 産業財産権 (1件)
PloS One
巻: 6 ページ: e26200
http://cellsystem.sci.yamaguchi-u.ac.jp/