血管は胚発生段階から栄養や酸素をからだに行き渡らせるために循環器として機能しつつ、胚のかたちづくりに合わせて自らのネットワークパターンをリモデリングする。個々の血管内皮細胞の動態を制御する分子機構はかなり詳細になっているが、実際の個体内において血管がその内腔構造を保ったまま位置が変化する「細胞集団としての移動」現象のしくみは、未だ解明されていない。本研究は、背側大動脈がからだの側方から正中軸方向へ向かって位置を変化させるトランスポジション現象のメカニズムを理解するため、血管内皮細胞を可視化できるトランスジェニックウズラ胚をモデル動物として用い、血管がからだの決まった位置に形成されるしくみを血管内皮細胞と周囲の組織(体節、内胚葉)とのクロストークから明らかにしようとしている。研究代表者がこれまでに行ってきた研究から、背側大動脈のトランスポジションの時期に、近傍の体節細胞が正中軸側の体腔に向かって一過的にフィロポディア様の非常に長い突起を形成することを見いだしている。この体節のフィロポディア突起の役割を詳細にするため、平成23年度は、フィロポディアの形成を特異的に阻害するFP4-mitoタンパク質をウズラ胚体節細胞へ強制発現させその影響を調べた。その結果、本来起こるべき体節腹側部(将来、硬節に分化する部位)の特徴的な変形が見られなくなり、さらに隣接する背側大動脈のトランスポジションが正常に起こらなくなった。このフィロポディア突起の形成は、細胞外基質ファイブロネクチンの重合化を阻害すると観察されなくなることから、体節のフィロポディア形成には、細胞外基質が正常に空間配置されることが必須であることも突き止めた。
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