細胞浸潤は基底膜に生じた穴を介した細胞移動のことであるが、in vivoの解析は非常に困難である。その主たる理由は、基底膜を人工的に合成できないこと、つまり適切な実験系がないためである。線虫アンカー細胞の基底膜を介する浸潤モデルは、近年確立されたin vivo実験モデルであり、遺伝学、細胞生物学を組み合わせて解析できる有用なモデルである。この実験モデルを用いて平成23年度は、下記の研究に取り組んで成果をあげた。 1.基底膜の動態解析 基底膜の主要構成成分のラミニンとTypeIVコラーゲンの可視化に成功した。FRAP(Fluorescence Recovery After Photobleaching)により、基底膜主要構成成分の代謝を観察した結果、TypeIVコラーゲンとラミニンでは異なる代謝速度が観察された。また基底膜動態に異常が観察される多数の変異体を得ることができた。 2.ヘパラン硫酸プロテオグリカンによる細胞浸潤の制御 細胞浸潤に異常を示す新規変異体を同定した。その変異体であるSQV-2はプロテオグリカン合成酵素をコードしており、約70%程度の細胞浸潤異常が観察された。プロテオグリカンは2種類に大別できる(ヘパラン硫酸プロテオグリカンとコンドロイチン)。23年度はヘパラン硫酸プロテオグリカンが結合するコア蛋白質の変異体を観察したが、アンカー細胞の浸潤は正常であり、コア蛋白質は複数の蛋白質が関与して細胞浸潤を制御している可能性を考慮している。現在、コア蛋白質変異体の2重変異体、3重変異体を作成して、細胞浸潤への影響を検討している。
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