細胞浸潤は基底膜に生じた穴を介した細胞移動のことであるが、in vivoの解析は非常に困難である。その主たる理由は、基底膜を人工的に合成できないこと、つまり適切な実験系がないためである。線虫アンカー細胞の基底膜を介する浸潤モデルは、近年確立されたin vivo実験モデルであり、遺伝学、細胞生物学を組み合わせて解析できる有用なモデルである。この実験モデルを用いて平成24年度は、下記の研究に取り組んで成果をあげた。 1.ヘパラン硫酸プロテオグリカンによる細胞浸潤の制御 細胞浸潤に異常を示す新規変異体を同定した。その変異体であるSQV-2はプロテオグリカン合成酵素をコードしており、約70%程度の細胞浸潤異常が観察された。解析の結果、SQV-2は浸潤細胞や、浸潤を引き寄せる細胞では発現しておらず、周りの細胞で発現していることが明らかになった。おそらく細胞非自律的な機構によって、細胞浸潤を制御していると考えている。 2. 細胞は形成された基底膜にどのように穴をつくるのか? 細胞浸潤の全体像を明らかにするために、細胞浸潤過程に異常を示す新規変異体、aid-1~6(Anchor cell invasion defect)変異体を樹立した。すべて独立の変異体である。そのうちの一つは、ネトリンの受容体であることがわかった。変異体スクリーニングによって、想定していた以上に様々な変異体を得ることができた。遺伝子同定後は、発現細胞の確認、組織特異的に発現させるレスキュー実験を行い、基底膜形成の解明及び基底膜にできる穴がどのようにできるのか、そしてその穴のサイズを調節する分子機構を明らかにして、論文を提出する予定である。
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