研究概要 |
申請者は最近、1)神経突起先端の成長円錐のフィロポディア(糸状仮足)が自律的に右ねじ方向に回転運動すること、2)この回転運動が左らせんモーターであるミオシンVにより駆動されること、3)フィロポディアの右ねじ回転運動が神経突起の2次元平面上での右旋回運動を引き起こすこと、を見出した(Tamada et al,J Cell Biol. 188, 429, 2010)。この成果は、神経細胞がこれまで考えられていたような直線運動だけでなく、自律的に回転・旋回運動する特性を持つという新規の概念を打ち立てるものである。本研究では、自律的で左右非対称な回転・旋回運動が、細胞移動・軸索伸長・標的認識・シナプス形成などの神経回路形成の諸過程の精緻化に寄与するという仮説を立てて、これを検証することを目的としている。本年度は、自律的で左右非対称な回転・旋回運動が、神経回路形成の諸過程の精緻化にどう寄与するのか調べるために、まず、回転を駆動するミオシンVの分子改変を行い、回転特性を変化させる手法を確立することを目標にしてきた。具体的には、ミオシンVの分子構造を変化させて神経細胞の回転特性を操作することを目指している。9アミノ酸よりなるαヘリックスの挿入によりネックを180度捻じると想定される改変分子を作成し、それを神経細胞に過剰発現させる実験を行った。その結果、本来なら一方向に右回転するはずのフィロポディアが右回転と左回転を交互に繰り返すという現象が観察された。この現象は、内在性の正常分子による右回転と過剰発現させた改変分子による左回転の拮抗状態を現しているのではないかと解釈される。
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