隣接する細胞の死と生を認識するためのシグナルを明らかにするために、前年度の結果に加え、以下の実験を行い、成果を得た。 1: 細胞の死に際して細胞から放出され得る物質として生理的にも重要なものとしてATPがある。この重要性を確かめるために、ATPを速やかに分解するアピラーゼを培養液に加えたところ、アクトミオシンリングが形成されないことを観察した。しかし、アピラーゼのロットによることも分かり、その重要性は確かなものではないと言える。 2: ギャップジャンクションにおける物質伝達の阻害剤を培養液に添加してもアクトミオシンリングの形成と修復は全く阻害されなかった。しかし、阻害剤の効果が100%のものかどうかも疑問であるため、ギャップジャンクションが死のシグナル伝達に関与していないとまでは言えない。 3: 修復の終了のシグナルが生細胞への接着であるのか、アクトミオシンリングの収縮の完了であるのか、あるいはアクトミオシンリングは形成してから一定時間後に消失するものなのか、これらを明らかにするために、細胞が接着できない領域をパターンとして配置した特殊なガラスに細胞を培養し、接着できない領域に接している細胞一列を殺傷した。その結果、アクトミオシンリングは正常に形成され、その収縮の結果、細胞は接着できない領域まで動き、そこで止まったが、アクトミオシンリングは長時間維持されていた。一方、アクトミオシンリング形成後すぐに生細胞に接触できるようにすると、アクトミオシンリングが完全に閉じきらなくてもアクトミオシンリングは生細胞と接触した途端に消失することが観察された。これらのことは、生細胞との接触がアクトミオシンリングを消失させるシグナルとなっていることを強く支持する。
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