研究実績の概要 |
光誘起電子移動を利用した、光エネルギーから化学エネルギーへの変換は、人工光合成系として現在、非常に注目されている。特に最近では、光増感剤を用いた光酸化触媒系の構築が盛んになされている。本年度は、サドル型に歪んだ構造を持つドデカフェニルポルフィリン(H2DPP)のジプロトン化体 ([H4DPP]2+)が、非常に高い還元電位を有することを利用し、[H4DPP]2+を光増感剤兼電子伝達剤とし、酸化触媒能を有するルテニウム錯体に共有結合を用いて導入した、新規光酸化触媒系の構築を目指した。 本研究では、[H4DPP]2+のメソ位のフェニル基に対して、2,2;6',6"-terpyridine (terpy)を導入し、これを2,2'-ビピリジル(bpy)を配位子に持つルテニウムに配位させることで、二元系分子、[H4DPP-RuCl(terpy)(bpy)]3+を構築した。この二元系の合成は、まず4つあるメソ位フェニル基のパラ位の1つに、ブロモ基を有するH2DPP 誘導体を新規に合成し、これに対してPd触媒を用いたクロスカップリングにより、Ru錯体部位を導入することで達成した。二元系のキャラクタリゼーションは、CD3CN中における1H NMRスペクトル、MALDI-TOF-MSにより行った。さらに、この二元系分子の吸収スペクトルと発光スペクトルより、[H4DPP]2+部位の一重項励起状態のエネルギー準位を1.65eVと決定した。また、PhCN中での二元系分子の電気化学測定から、電荷分離状態の準位は1.21eVとなった。PhCN中でのフェムト秒過渡吸収スペクトルでは、570nmにH4DPP・+に由来する鋭い吸収帯が観測され、分子内光誘起電子移動が進行し、約1 nsの寿命を持つ電子移動状態が形成される事が明らかとなった。
|