近年バイオテクノロジー・医療分野におけるマイクロマシンはナノスケールへと小型化され,適用する対象を臓器から組織,さらには細胞へと変化しつつある.細胞やその中の分子機能を解明することにより,細胞単位での治療が可能となり,様々な病気に対する新たな治療法が確立されることが期待されている.例えば、細胞内粘度は,細胞状態により変化するパラメータであり,心筋細胞の機能が低下すると,細胞内粘度が高くなるといった報告がある.そこで,細胞内のpHや圧力,温度,粘度などをセンシングできるデバイスの開発が必要とされている.そのため,細胞への侵襲性が低く,複数の機能を持ち合わせたナノマシンが求められている.しかし,これまでマイクロマシンが細胞内で駆動したという報告はまだない.そこで,本研究では回転磁場により駆動可能なナノマシンを細胞内に導入し,細胞内粘度測定を目的とした.細胞内でナノマシンを駆動できれば,様々な細胞内物性測定や細胞内操作可能となり,多機能な細胞内ロボットとして期待できる. 今年度はマイクロインジェクション法により,ナノマシンを細胞内に導入することに成功した.また,細胞内でナノマシンが駆動する様子を確認することができた.ナノマシンによって粘度測定を行うため,その測定原理を確立し,その正当性を評価するため標準溶液を用いて粘度測定を行った.ヘルムホルツコイルによる回転磁場により,ナノマシンは回転し,この回転磁場の回転速度に同期する.しかし,印加する磁場を小さくすると,発生する回転トルクも小さくなるため,ナノマシンは脱調する.本研究ではこのナノマシンが脱調する際の磁束密度により,粘度を測定した.ナノマシンの運動方程式から脱調時の磁束密度と粘度の関係を導出し,粘度測定法を確立した.実際に,標準試料を用いてこの粘度測定法の妥当性を検証し,ナノマシンを細胞内に導入後,細胞内の粘度測定に成功した.
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