金属錯体は配位立体化学に基づく特異なレドックス活性や分光学的特性を持ち、柔軟に脱着可能な配位結合を自在に制御できれば、分子認識に基づく、プログラムされた組織化と動的情報変換が期待される。本新学術領域研究では、分子内の弱い相互作用により特定のらせん構造を形成することのできるアミノ酸誘導体を配位子として活用し、置換活性な金属イオンとの錯体形成により新たに構築されるらせん型錯体分子を基盤として、生体系で見られるような外部刺激による超分子レベルでの動的なキラル情報変換系の創発を目指した。研究代表者が独自に開発したキラル配位子からなるらせん型置換活性遷移金属錯体は、外部刺激に応答した分子運動が可能である。平成24年度は、23年度の成果をさらに発展させ、以下の成果を得た。 (1)錯体らせん分子のマルチ分子運動とキラリティー変換 金属錯体化と解離、配位結合の異性化、さらには金属中心の特異な幾何構造の変換を活用して、様々ならせん型分子を構築し、外部刺激に応答したマルチ分子運動と、キラル情報の変換システムを実現した。特に、酸化還元システムを活用したキラリティーの記憶化やマルチ入力、マルチ出力システムを実現した。 (2)錯体ヘリシティーの集積化によるナノレベルでのキラリティー創発と動的変換 キラル錯体の集積化を活用して、新たにナノレベルでのキラリティーの創出を行った。さらに外部刺激を活用した新しいキラリティー変換システムの構築と、それらの変換速度を明らかにすることができた。 (3)光異性化を活用した錯体ヘリシティーの動的変換と機能創発 配位ユニットの末端に光異性化ユニット(アゾベンゼン)を導入し、光異性化(trans-cis)運動のらせん情報への変換・増幅、およびらせん反転の同時制御、さらには反応速度の制御が可能となった。
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