研究概要 |
光合成は地球最大のエネルギー変換システムであり、光合成初期過程における光エネルギーの捕集・伝達・変換という極めて重要な役割を担っているのは、クロロフィル(Chl)と呼ばれる色素分子である。高等植物などのアンテナ部では、Chl色素分子がタンパク質と特異的に相互作用すること(色素-タンパク複合体を形成すること)で巧妙に配置され、超高速・高効率なエネルギーの伝達を行っている。一方、光強度の極めて低い環境でも生息できる緑色光合成細菌では、クロロゾームという特殊なアンテナ系がその機能を担っている。クロロゾームにはバクテリオクロロフィル(BChl)-c,d,eと呼ばれる分子が含まれており、これらのBChl分子がタンパク質の補助なしにJ型の自己会合体を形成することで、クロロゾームは光捕集アンテナとして機能している。このJ会合体の超分子ナノ構造は現在でも未確定であるが、ロッド状や(ラメラ)シート状であると想定されている。このような自己会合体を形成しうるモデル分子を天然産のCh1-αから調製した。特に下記の3点は特筆される:1)モデル分子に様々な長さのアルキル鎖を導入できた;2)3^1位の水酸基の代わりにアミノ基でも構わないことを明らかにした;3)13^1位のオキソ基の代わりにジシアノメチレン基でも構わないことを明らかにした。これらのモデル分子を様々な環境でその巨大J会合体を構築させた。長鎖アルキル基を導入したモデル化合物の会合体は、直径5nmのロッド状(もしくはファイバー状)の超分子ナノ構造を構築しやすいことを、原子間力顕微鏡(AFM)や電子顕微鏡で明らかにした。さらに、このJ会合体を透明電極(ITOなど)上に修飾することで光電流を得ることができ、色素増感太陽電池のような光応答性のナノデバイスを創製すこともできた。
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