研究領域 | 分子ナノシステムの創発化学 |
研究課題/領域番号 |
23111721
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研究機関 | 徳島文理大学 |
研究代表者 |
山口 健太郎 徳島文理大学, 薬学部, 教授 (50159208)
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キーワード | 質量分析 / 多価イオン / CSI-MS / クロスリンカー / 同位体標識 |
研究概要 |
本研究で開発してきた同位体標識多価数イオン化プローブは、^<15>N標識pybox-La錯体と錯形成することで標的分子を多価イオン化すると共に、同位体標識することができる。これにより、生体高分子を低質量領域で測定することが可能となり、また同位体シフトも観測できる。しかし、以前の同位体標識錯体では、シフトが0.7-1.0uと小さいため、解析が困難なことが多い。そこで、より鮮明な同位体シフトを観測するため^<15>N_2-D_4標識pybox-La錯体を合成した。さらに、新たな官能基選択的MSプローブとしてanchoringsiteにhydroxylamineを持つカルボニル基専用の多価イオン化プローブoxime-TMpyboxを合成した。そして、それらの^<15>N_2-D_4標識pybox-La錯体とoxime-TMpyboxを使った同位体シフトを観測した。この結果、oxime-TMpyboxおよび15N2-D4標識pybox-La錯体を高収率で合成することに成功した。また、これらによるCSI-MS測定において多価イオン化能およびその同位体シフトを確認した。 一方、これら本研究で開発したプローブを応用し、質量分析多価イオン化クロスリンカーの開発を行った。生体分子の化学架橋、通称クロスリンクはタンパク質の構造解析や相互作用を観測するための有用な手法であり、様々なクロスリンカーが開発されている。しかし、開裂型クロスリンカーは塩基や酸化剤等を用いる過酷な条件で開裂するものが多く、開裂後の解析が困難なことも少なくない。そこで今回、開発したMSプローブを応用し、より穏和な条件で開裂するクロスリンカーを開発した。この結果、NHS-TMpyboxによるリジン同士のクロスリンク実験において、主なイオンピークとして[K-K^<3+>](m/z382)等を観測した。さらに、この溶液に水を添加するとクロスリンクした多価イオンは消失し、pybox-La錯体部が開裂したm/z504の1価イオンを観測することができた。このように、水を添加するという穏和な条件で開裂するこれまでにない開裂型クロスリンカーの開発に成功した。この手法はさらに多くのアミノ酸や炭素クラスターをリンクする機能を持ち、実際、複数のアミノ酸がクロスリンクしたスペクトルを得ている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初計画した種々の金属錯体を利用した質量分析用多価イオンプローブの開発に成功している。さらに穏和な条件ではイオン化しにくい炭素クラスターの多価イオン化にも成功し、またこれらの同位体標識体の合成も行った。当初予想していなかった多価イオンプローブのクロスリンクが観測され、このリンクを水、を添加するだけで開列することができた。このことは、超分子ポリマーの自己組織化において利用価値が高い。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の現時点での成果として、タンパク質等の生体高分子や炭素クラスター、および超分子ポリマーを穏和な条件で質量分析する多価イオンプローブが開発され、さらにこれをクロスリンカーとすることで複雑なナノシステムを構築する自己組織化や創発現象の解明に迫ることがでる、次の段階として分子内に可動部位を有する、内部可動性超分子を構築し、本手法を利用した溶液質量分析等による解析を実施する。分子の内在運動性と自己組織化の発現より、部分運動を新しい要素とする創発現象の解明に取り組みたい。
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