我々は構造と機能の密接な「関連」を信じて分子構造を解析してきた。これにより分子機構を解明できると確信していたが、これは依然としてブラックボックスのままである。構造にはさらに下部構造があり、機能についても、その多様性が指摘される。ブラックボックスには未だ知られていないメソスコピックな領域での「原理」があるのかも知れない。驚くべき自己組織化によるこの領域での分子進化を見るとき、このことを疑わざるを得ない。これは単に相互作用の劇的増大によるものかも知れないが、これこそ創発と捉えるべきものなのであろう。 ①我々は以前より溶液構造解析手法について検討してきた。そしてCSI-MSの開発に至った。更にこの手法による、種々の金属錯体を利用した質量分析用多価イオンプローブの開発に成功した。これにより溶液構造解析が広範囲にわたり可能となり、大型分子制御の創発研究に寄与する事ができた。 ②一方、新規分子ナノシステムとして分子接合素子型超分子ポリマーを創製し、その動的挙動を解析してきた。この方法論を拡張し、パーツ分子を変更することで分子認識分子のテーラーメイド化が実現出来る。さらに、構造の要となるホウ素原子を炭素に変えることにより、中性ホスト分子を得ることが出来た。 ③次に分子内に回転可能部位を有する、内部可動性化合物である分子ジャイロコマを創製し、物性を解析した。かご型フレーム骨格にπ電子系が架橋したこの分子は、フレームにより立体保護されているため、内部の回転子が回転運動していることを見出した。さらにこの単結晶の内部回転子の熱回転運動が、複屈折を変化させることを発見した。回転子を、双極子モーメントを有するチオフェンに変えることにより、温度で回転子の配向が変化し、温度上昇と共に相転移を伴って乱れ、最終的に複屈折を変化させることがわかった。 配向の秩序ー無秩序転移は、本分子系における初めての観測例である。
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