研究領域 | 分子ナノシステムの創発化学 |
研究課題/領域番号 |
23111722
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研究機関 | 独立行政法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
若山 裕 独立行政法人物質・材料研究機構, 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点, MANA研究員 (00354332)
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キーワード | トンネル電子 / 単一電子メモリ / 原子層堆積法 / 電子準位 |
研究概要 |
有機分子の多彩な機能を現実的な分子デバイスへと発展させるにはどうしたらよいか?本課題ではその解として分子機能をSiデバイスに融合した分子メモリの開発を目的とする。具体的にはトランジスタのゲート絶縁膜の中に分子層を配列し、これを浮遊ゲートとして機能させた不揮発性の単一電子メモリを開発する。中でも心臓部となる分子層には独自に見出した自己組織膜「分子混晶」を応用し、異種分子を高密度でかつ規則的に配列する。これにより異なる電圧でそれぞれの分子に電荷を出し入れする多値メモリを実証する。まず初年度には真空成膜プロセスを用いてSi基板上にトンネル二重接合を作製することを計画していた。特に第二絶縁層は高い絶縁性と膜厚の制御性に加え、分子に対して非破壊プロセスで成膜されることが要求される。そのための最適プロセスとして原子層堆積法(ALD法)を採用した。その結果、この手法では高絶縁性のAl203薄膜が分子を破壊することなく堆積できることを確認した。こうして作製された素子の中では分子は絶縁膜にくるまれた状況になり、電荷を保持することができる。こうして作製したトンネル二重接合体の電圧-電流特性を測定したところ、単一電子トンネリングに起因した閾値電圧が観測された。特にフタロシアニンとフラーレンを用いた場合、それぞれの分子の電子準位によって異なる値となることがわかった。詳細な解析から分子の電子準位を介した共鳴トンネル現象で説明できることを明らかにした。これらの成果は分子の構造によって電子準位を制御し、さらにはトンネル特性を制御できるものとして、今後のメモリ素子へ発展させるための基礎的知見となった。さらに特筆すべき成果として、このトンネル現象を室温近傍で観測することに成功した。これは高絶縁性薄膜を用いたことによる結果であり、実用的素子開発の基礎となり得る。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
異なる電子準位を持った異なる分子でトンネル閾値電圧を制御できることを示すことができたのは当初の目的通り。さらにその機構が共鳴トンネル現象で説明できること、高絶縁性薄膜の成膜技術を確立できたこと、その結果この現象を室温近傍で観測できたこと、など確かな成果を出せてきた。
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今後の研究の推進方策 |
今後の最重要課題として複数の異種分子を同時にMOS構造の中に埋め込んだ素子構造の構築が挙げられる。これにより異なる電圧で異なる分子にそれぞれ電荷注入できる多値メモリの動作原理を明らかにする。これは当初目的としていた分子混晶による多値メモリの基礎的技術となる。一方、トランジスタ構造の中にトンネル二重接合体を作り込んでデータの読み込み動作を実証することも目標とする。
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