研究領域 | がん微小環境ネットワークの統合的研究 |
研究課題/領域番号 |
23112503
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研究機関 | 群馬大学 |
研究代表者 |
岡島 史和 群馬大学, 生体調節研究所, 教授 (30142748)
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キーワード | リゾホスファチジン酸 / 膵臓癌 / Ki16425 / MMP / 低pH / プロトン |
研究概要 |
腫瘍形成には様々な微小環境変化がともなう。酸素供給の低下と解糖系の亢進による低酸素化と酸性化(低pH)は広く認識されている。最近、我々を含む国内外のグループによって、一群のリゾ脂質G蛋白共役受容体(GPCR)が細胞外のプロトン(pH)を感知することが明らかにされた。一方、リゾボスファチジン酸(LPA)は癌細胞から放出されるオートタキシンによって産生される癌の微小環境因子の一つであり、これもリゾ脂質受容体ファミリーを介して作用する。本研究では、プロトン感知性受容体欠損マウスやLPAアンタゴニストを用いて、腫瘍形成や癌の転移を巡る癌細胞と宿主細胞の攻防に腫瘍内の高LPA、低pH環境を感知するリゾ脂質受容体が関与している事を明らかにすることを目指した。今年度は主にLPAの役割について解析した。その結果、(1)膵臓癌細胞YAPC-PDをヌードマウス腹腔内に投与すると3~4週間で腹膜播種を引き起こし、実際に肝臓や肺への転移・浸潤が観察される。この際、LPAを腹腔内に投与すると通常では観察されない1週間目で既に明らかな浸潤・転移を起こした。(2)マウスにLPAアンタゴニストKi16425の経口投与可能な誘導体Ki16198を投与すると、3~4週間後の肝臓や肺への浸潤・転移が明らかに抑制された。(3)腹水中にはマトリックスメタロプロテアーゼMMP-9、MMP-2の発現が観察されたがKi16198投与で著明に抑制されていた。このように、微小環境因子であるLPAは膵臓癌の遊走促進、MMPの発現を介して腹膜播種に関与していること、また、LPAアンタゴニストは膵臓癌の浸潤・転移抑制薬として有用であることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
LPAアンタゴニストがインビボにおいて膵臓癌の浸潤・転移を著明に抑制することを示すことができた。今後、膵臓癌治療への応用が期待される。一方、LPAの実験を中心的におこなったため、微小環境因子として取り上げたプロトンの研究は思うような実験の取り組みができなかった。
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今後の研究の推進方策 |
LPAに関しては大変意義のある結果が得られたので、今後は細胞外pHの効果に全力をつくす。予備的にはインビトロの実験で、細胞外pH低下がM1からM2へのシフトをおこすような知見を得ており、この詳細を検討し、さらに、インビボでのM1/M2シフトとプロトン感知性受容体の関与について明らかにしたい。したがって、特に大きな計画の変更は考えていない。
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