LPAや細胞外プロトンの微小環境因子としての役割について解析した。ヒト膵臓癌細胞YAPC-PDをヌードマウス腹腔内に投与すると3~4週間で腹膜播種、腹水中のMMP-9、MMP-2の発現を伴って、肝臓や肺への転移・浸潤が観察される。経口投与可能なLPAアンタゴニストKi16198は、いずれの応答も抑制した。今年度ではMMPに依存して産生される血管透過性因子VEGFについても解析した。その結果、(i)ヒト膵臓癌細胞を投与したマウス腹水中に多量のVEGFの存在が認められたが、抗体の反応性から大半は宿主のマウス由来のものであった。この応答もKi16198 で著明に抑制された。(ii) 腹水中ではMMP-2、MMP-9の前駆体、活性化型のいずれも検出され、Ki16198で著明に抑制されたのに対して、in vitroの膵臓癌細胞からはMMP-2、-9のいずれも産生しているが、LPAならびにLPAアンタゴニスト感受性を示したのはMMP-9のみであり、いずれも活性型は観察されなかった。(iii) in vitroの膵臓癌細胞からLPAならびにLPAアンタゴニスト感受性のVEGF産生が観察されるが、その程度は腹水と較べると極めて少量であった。以上の結果から、膵臓癌細胞から放出されたMMPを活性化する酵素(たとえば、プラスミン)はおそらく宿主由来であり、この活性化酵素の制御にもLPAの関与が示唆される。また、腹水中のVEGFはマウスECMに貯蔵されているVEGFがMMPによって放出されたと推定される。プロトン受容体を介した腫瘍の制御に関する解析では、マウス由来癌細胞 (B16-F1、LLC1)をマウス皮下に接種した解析からTDAG8欠損マウスでは腫瘍形成を抑制する傾向なのに対し、GPR4欠損マウスではほとんど変化しないという結果が得られている。今後、更なる検討が必要である。
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