研究領域 | がん微小環境ネットワークの統合的研究 |
研究課題/領域番号 |
23112506
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
金田 篤志 東京大学, 先端科学技術研究センター, 特任准教授 (10313024)
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キーワード | 癌 / ゲノム / エピジェネティクス / マイクロアレイ / 情報工学 |
研究概要 |
マウス線維芽細胞にレトロウィルス感染する系を用いて癌遺伝子Rasを活性化させ早期細胞老化を誘導した。時系列的な発現変化、エピゲノム変化のデータを用いて細胞老化に重要な候補分泌蛋白を抽出し、それらの下流シグナルの亢進やシグナル阻害因子の発現状態を検証した。分泌蛋白が発現上昇し、その阻害因子が発現抑制され、下流シグナルの亢進が確認された候補に対しては、shRNAによる分泌蛋白のノックダウンや阻害因子の強制発現により、下流シグナルが不活化し細胞老化を回避するか検証した。その結果、分泌蛋白Bmp2は活性化マークH3K4me3が入り不活化マークH3K27me3が抜けることで200倍と強く発現上昇し、シグナル阻害をするSmad6やNogは逆に活性化マークH3K4me3が抜けて不活化マークH3K27me3が入ることで強く発現抑制され、最終的にBmp2-Smad1シグナルが活性化することが細胞老化に重要であることが同定された。さらにBMP2刺激下に抗Smad1抗体を用いたChIP-seq解析を行い、Bmp2-Smad1シグナルの下流標的遺伝子を探索した。シグナル阻害因子Smad6はSmad1の標的であり、本来ネガティブフィードバックを形成する阻害因子であるがこのような負の調節因子であるシグナル標的遺伝子はH3K27me3によりエピジェネティックに発現抑制されることで、Bmp2-Smad1シグナルの活性化状態が継続することがわかった。H3K27me3が入らない標的遺伝子はBmp2-Smad1シグナルにより活性化を受け続け、そのような遺伝子の一つにParvbを同定した。Parvbはマウス線維芽細胞で増殖抑制的に働き、その原因の一つにAktリン酸化の阻害が考えられた(Kaneda et al.PLoS Genet 2011)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
癌遺伝子Rasの活性化が誘導する分泌蛋白としてBmp2を同定し、その下流シグナルとしてBmp2-Smad1活性化の重要性、下流標的遺伝子としてParvbなど活性化される遺伝子の同定、負の調節因子であるSmad6などはエピジェネティックに不活化されることで癌化防御に至っていることが判明した。おおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
Bmp2-Smad1シグナルやその標的遺伝子の中から、実際の癌遺伝子変異陽性癌症例において不活化されている遺伝子をスクリーニングする。Bmp2以外の重要な分泌蛋白候補についてもさらに網羅的解析を引き続き行い、細胞老化に重要なシグナルおよびその標的遺伝子などをさらに同定する予定である。
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