多発性骨髄腫(MM)の病態維持に重要なMM幹細胞の骨髄低酸素環境の動態、および治療標的分子の同定のため、以下の検討を行った。まず正所性MM担がんマウスを作製し、MM細胞の骨髄内の動態を解析した。MM細胞は海綿骨周囲の骨内膜下に生着し、低酸素マーカーであるピモニダゾール陽性を示した。このことより、MM細胞は骨髄微小環境下では低酸素状態であることが明らかとなった。低酸素下骨髄微小環境で生存するMM細胞の性状をin vitro系で解析するため、1%低酸素状態下で長期生存可能な低酸素適応MM(HA-MM)細胞株の作製を試み、現在までに6株(AMO-1、OPM-2、NCIH929、RPMI8226、U266、IM-9)のHA-MM細胞株を樹立した。それぞれの細胞増殖を解析したところ、低酸素環境では細胞増殖スピードはそれぞれHA株で有意に遅く、またdoubling timeも有意に長いことが明らかとなった。これらの細胞株をNormoxia(20%)下の培養条件に戻したところ、増殖速度はNormoxia下での培養細胞と同等の増殖速度に復した。Ki67/7-AADを用いた二重染色による細胞周期解析では、親株であるNormoxia下での培養細胞に比して、G0期の細胞集団が有意に増加しており、さらにOct3/4、Sox2といった幹細胞マーカーのmRNAの発現亢進を認めた。CD138抗原の発現の低下は認めず、またMMの治療標的として有効であると報告してきたbeta-cateninの発現や、慢性骨髄性白血病のHA株で治療標的分子の一つとして同定したGlyoxalase 1の発現は、MM親株とHA株で発現の差は認めなかったが、TGF-betaシグナルの下流のSmad2のリン酸化亢進を認め、MMにおいてはTGF-beta/Smadシグナル系がMM幹細胞維持に関与することが示唆された。
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