現在の日本においてがんを含む悪性腫瘍による死亡は全死亡の約30%を占め、死亡原因の第1位である。がんが生命を脅かす最大の要因は、がんの浸潤-転移にある。そこで本研究では、がん細胞が浸潤する際のがん細胞と周囲環境との相互作用における接着分子およびその関連分子の役割と作用機構を解析することを主眼とし、平成23年度は以下の研究成果を得た。1)浸潤を開始したがん細胞は細胞運動が亢進しているが、その際、運動進行方向前方に形成される細胞の運動先導端が重要である。この先導端形成に接着分子ネクチンの細胞内領域に結合するアファディンが大きな役割を果たしていること、そのメカニズムの一つとして、アファディンが別のアダプター分子ADIPと結合することが重要であることを見出した。さらに、この両分子の結合により、その下流で運動先導端形成に必須の低分子量Gタンパク質Racが活性化されていく分子機構を明らかにした。また、この分子機構において、Rac活性化因子の一つであるVav2のリン酸化が重要であった。2)がん細胞と間質細胞との直接的な相互作用を解析する実験系を開発し、その系とDNAマイクロアレイ法を用いて、がん細胞が周囲組織に浸潤した際の遺伝子発現変化について検討した。その結果、2倍以上に発現増加している遺伝子が55個、半分以下に発現低下している遺伝子が8個見つかった。現在、これらの遺伝子のいくつかについて機能解析を行っており、これらの遺伝子発現の変化ががんの浸潤・転移をどのように制御しているかの検討を進めている。
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