研究領域 | がん微小環境ネットワークの統合的研究 |
研究課題/領域番号 |
23112510
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研究機関 | 島根大学 |
研究代表者 |
竹永 啓三 島根大学, 医学部, 准教授 (80260256)
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キーワード | がん微小環境 / IL-33 / ST2L |
研究概要 |
ルイス肺がん由来の低転移性と高転移性細胞での遺伝子発現を比較したところ、低転移性細胞は炎症性サイトカインIL-33の受容体であるST2Lを発現しているが、高転移性細胞はほとんど発現していないことを見出した。がん組織中でのIL-33の存在やがん細胞におけるST2L発現の意味は全く不明である。そこで、これらの点について検討した。まず、低転移性細胞の皮下腫瘍中のIL-33をELISAで測定したところ多量に存在することが判った。また、皮下腫瘍中のIL-33産生細胞を検討したところ、CD3+リンパ球、Tryptase+マスト細胞、F4/80+マクロファージが陽性であった。次に、低転移性細胞のST2Lの機能性を検討するためにレコンビナントIL-33を作用させたところ、p38MAPKやNF-kBの活性化が認められ、機能的であることが判った。そこで、がん微小環境中で生じる低血清、低グルコース、グルタミン飢餓あるいは低酸素(1%酸素)条件下で低転移性細胞を培養しIL-33を作用させたところ、特に低グルコースやグルタミン飢餓の条件下で、ST2L及びMyD88依存性に細胞死が促進されることが判った。この細胞死はほとんどがネクローシスであり、アポトーシスやオートファジーの関与は軽微であることが判った。また、この細胞死の促進はp38MAPK阻害剤により抑制されることも判った。IL-33は高転移性細胞の細胞死は促進しなかった。次に、異なる色の蛍光タンパク質を発現させた低転移性細胞と高転移性細胞を混合し、低酸素/低グルコース条件下でIL-33を作用させたところ、高転移性細胞が生き残る率が高いことが判った。これらの結果から、がん微小環境下で、IL-33はST2L陽性低転移性細胞の細胞死を促進し、ST2L陰性高転移性細胞の選別を促進することで、悪性進展に関わる可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
現在のところST2L特異的抗体は市販されていない。そこで、ヒト腫瘍組織におけるST2Lの発現を組織免疫染色で検討するためにST2L特異的モノクローナル抗体の作製を本年度中に終わらせる予定であったが、これが遅れているため。
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今後の研究の推進方策 |
今後は次の項目について推進する。 1)がん組織中でのST2L高発現細胞と低発現細胞の細胞死及び細胞増殖の状況をIL-33ノックアウトを用いて検討する。 2)ST2L低発現高転移性細胞が腫瘍内IL-33で選別されるかどうかを検討する。 3)ST2L特異的モノクローナル抗体の作製が完了次第、ヒト腫瘍臨床検体におけるIL-33及びST2L発現状況と予後との関連を検討する。
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