IL-33受容体ST2Lが、マウス肺癌由来の低転移性細胞株では発現されているが、高転移性細胞株では殆ど発現されていないこと、腫瘍内微小環境で生じる低グルコース条件下で、IL-33が低転移性細胞株のみの細胞死を促進すること、両細胞株の共培養系にIL-33を添加すると高転移性細胞が高率に生き残ることを明らかにしてきた。このIL-33による細胞死の様式は、アポトーシスやオートファジーではなく、細胞質膨潤を伴うネクローシスであることが判った。しかし、necrostatin-1やN-acetylcysteineで細胞死が抑制できないことから、ネクロトーシスではなく、また活性酸素種も関与しないことが判った。一方、IL-33による細胞死の促進が、p38MAPK阻害剤およびmTOR阻害剤によって抑制されること、AMPKαのリン酸化の促進がIL-33により抑制されるのに伴いmTOR(S2448)のリン酸化が亢進することが明らかになった。従って、IL-33による細胞死の促進にはp38MAPKおよびAMPKα-mTOR経路が関与することが示唆された。 一方、ST2L発現をノックダウンした低転移性細胞の同系マウスでの腫瘍増殖速度を調べたところ、対照と比較して増殖が速くなる傾向が認められた。このことから、ST2Lノックダウン細胞は腫瘍内で生存しやすくなっていることが示唆された。 次に、ヒト肺癌および肺正常組織でのST2の発現をOncomineデータベースを用いて解析したところ、肺癌組織でST2の発現が顕著に低下していることが判った。また、ヒト肺癌細胞株10種類におけるST2L発現を調べたところ、発現しているのは1種類のみであった。これらのことから、腫瘍内微小環境で生存に不利となるST2L発現がん細胞は、悪性度進展の過程で淘汰されてしまうか、あるいは発現を低下させてしまうのではないかと推察された。
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