公募研究
従来、白血病とは異なり、固形癌では末梢血や骨髄中に癌細胞が存在することは稀であり、仮に検出されても偶発的に固形病巣から零れ落ちてきたものと看做されていた。1981年、乳癌で初めて遊離癌細胞(ITC;Isolated Tumor Cells)が報告され、それ以後我々を含めた内外の研究者が固形癌患者に於けるITCの存在とその病理的意義を示した。ITCは主に骨髄の場において生物学的な活性が段階的に修飾され、転移しない良性ITCから転移能を獲得した悪性ITCに変化することが明らかとなった。その過程においては宿主ニッチ・微小環境(筋線維芽細胞・骨芽細胞・食細胞)からのサイトカイン等の刺激によりITCの悪性化に際してエピジェネティックな修飾が蓄積され、5-6個の内因性マイクロRNA発現に特徴ある変化が現れる。さらに細胞治療学的な手法により、特殊な配列を有する人工合成マイクロRNAを細胞に導入することにより細胞形質を大きく変換できる技術を整備した。【骨子】消化器癌の転移を左右する骨髄内遊離癌細胞のマイクロRNAを解明し、癌転移の早期診断および介入創薬に向けて、未来型医療の基盤を構築した。【結果】本年度は当初の計画に基づいて、消化器癌患者の骨髄細胞につき、倫理委員会等の必要手続きを申請および承認を得た後に採取を実施し、高感度細胞分離装置で解析した。その結果、転移を有する患者とない患者のCD45(-)EpiCAM(+)の骨髄内上皮細胞を比較して特徴的なマイクロRNA分子が発現していることを明らかにした。現在知的財産整備と、産学連携での創薬準備に着手するとともにメカニズム解析を進めている。【考察】消化器癌患者の骨髄では、発現マイクロRNA分子種が上皮系パターンに偏倚していた。興味深い事に、造血系の細胞でも上皮系マイクロRNAを介した細胞の上皮化現象が行われており、この現象が原発巣の消化器癌からのケモカインおよび血中マイクロRNAによる遠隔効果である可能性が推測された。引き続き解明を急いでいる。
1: 当初の計画以上に進展している
消化器癌患者の骨髄サンプル集積、骨髄中のマイクロRNAの抽出等、順調に推移した。マイクロRNA標的の絞り込みが終了し、消化器癌患者の骨髄細胞に於ける新たな知見が得られた。
消化器癌患者の骨髄細胞に於ける形質変化は、新規の診断および治療のシーズとなる可能性を秘めており、開発研究を着実に推進する。
すべて 2011
すべて 雑誌論文 (9件) (うち査読あり 9件) 学会発表 (4件)
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