本研究の目的は、細胞外マトリックスのダイナミズムを司るバーシカン(Versican、以下Vcan)によるがん細胞挙動制御機構を明らかにすることである。本研究では、Vcan コンディショナルノックアウト(cKO)マウスと種々の発がんマウスモデルやがん移植実験を組み合わせた実験を行い、Vcanのがん細胞制御機構の解明を目指した。 当初予定していた発がんマウスモデル(LSL-K-rasG12Dマウス、p53R172Hマウス等)の実験系は、発がん率が低いこと、当初の予想以上の労力と時間がかかることが判明したため、B6系マウスに移植可能な線維肉腫細胞株QRsPを用いたがん移植マウスモデルの実験を行うこととした。予備実験で、(1)C57Bl/6系のRosa26 : Vcanflox/floxマウスの皮内あるいは皮下にAd-Cre(Cre酵素を発現するアデノウイルス)を注入すると注入部位の細胞(表皮細胞と真皮線維芽細胞)がX-gal染色陽性となり、また対照群で観察されるVcanの発現が消失すること、(2)B6系マウスに生着可能な線維肉腫細胞株QRsPをC57Bl/6の皮下に移植すると約3週間後には肉眼的に腫瘍塊が観察されることを確認した。次にC57Bl/6系のVcanflox/floxマウス皮下にQRsP細胞+Ad-Creあるいは対照群としてQRsP細胞+Ad-GFPを注入し、増生する腫瘍塊と周囲組織の解析を行ったところ、Vcan欠失群では腫瘍塊が増大していた。 現在、腫瘍間質のVcan欠失による腫瘍細胞挙動の変化の詳細と、細胞外マトリックス分子の発現量ならびに分布の変化、さらには血管新生とその関連分子群に関して解析を進めている。
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