研究領域 | がん微小環境ネットワークの統合的研究 |
研究課題/領域番号 |
23112522
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研究機関 | 公益財団法人微生物化学研究会 |
研究代表者 |
川田 学 公益財団法人微生物化学研究会, 微生物化学研究所・沼津支所, 主席研究員 (20300808)
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キーワード | 癌 / 生理活性 / 間質 |
研究概要 |
ヒトがん細胞と繊維芽様の間質細胞の共培養実験系を用いて、がん細胞と間質細胞との相互作用を制御すると予想される低分子化合物を見出し、その作用機構の解析から相互作用の解明を目指し検討を行った。その結果、2つの低分子化合物ががん微小環境を制御する低分子プローブとして有用であることが示唆された。一つはMEK inhihibitor Iであり、胃がんと間質の相互作用の研究へと利用することができた。胃がん細胞の増殖が胃の間質細胞によって正にも負にも制御されることを我々は見出していたが、MEK inhibitor Iを用いた解析から、胃の間質細胞による正の制御、すなわち胃がん細胞の増殖促進作用には間質細胞が分泌するサイトカインIL-6が関与し、また胃がん細胞はPGE2やTNF-alphaを分泌することで間質細胞からのIL-6の分泌を促進することが分かった。もう一つの低分子プローブは我々がスクリーニングによってカビの培養液から発見した新規化合物NBRI16716Aである。肺がん、胃がん、大腸がん、膵がん、乳がん、前立腺がんと各臓器由来の間質細胞との共培養系を用いた解析から、NBRI16716Aは前立腺がんと肺がんのある細胞株の増殖をがん細胞のみの培養に比べて間質細胞と共培養した時の増殖を強く阻害することが分かった。この時、NBRI16716Aを処理した間質細胞の培養上清によってもNBRI16716Aのがん細胞増殖阻害活性が増強されることから、間質細胞からの液性因子が関与している可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度の研究から少なくとも2つの低分子化合物ががん微小環境を制御する低分子プローブとして有用であることが示唆された。また、1つの低分子化合物を用いた解析から、胃がんと間質の相互作用の実態の解明へと繋がる知見が得られた点は極めて重要である。
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今後の研究の推進方策 |
胃がんと間質の相互作用の解明については、間質細胞による胃がん細胞の負の制御、すなわち増殖抑制作用という大変興味深い現象の解明に向けて、引き続き低分子プローブを用いた解析を続ける。また、もう一つの低分子化合物についてはその作用機構の解析を進め、がん-間質相互作用の解明の一助とするとともに低分子プローブとしての有用性を見極める。一方で新たな低分子プローブの探索も続けて行く。
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