扁形動物門に属する淡水産プラナリア(Dugesia japonica)は体のどの部分の断片からでも個体を完全に再生することができる高い再生能力を持っている。この再生能力は新生細胞と呼ばれる分化全能性の成体幹細胞に依存している。この新生細胞の細胞内にはRNAとタンパク質から構成されるクロマトイド小体と呼ばれる特徴的な構造体が存在している。このクロマトイド小体は細胞分化の際にサイズ、数が減少し、さらにクロマトイド小体に異常が出るように遺伝子機能を操作した個体では再生能力に異常が観察されることから全能性に重要な役割を持っていることが示唆されてきた。しかしながら、クロマトイド小体のなかで、どのようなRNA分子がどのように制御されることによって全能性が制御されているのかについては未知であった。そこで本研究ではクロマトイド小体に局在するRNAを同定し、全能性とmRNA制御機構の関係をあきらかにすることを目的とした。 当該年次において、複数のクロマトイド小体構成タンパク質に対する抗体による免疫染色によって、クロマトイド小体が従来考えられてきた均一な集団ではなく、少なくとも3種類の不均一なRNP顆粒に分類できることをあきらかにした。また、様々なRNAの細胞内局在を調べたところ、新生細胞の活性化時に発現が減少するPlac8遺伝子のmRNAは新生細胞内において顆粒状に局在しており、新たなRNP顆粒の存在が示唆された。さらに転移因子であるgypsy-P1のアンチセンス鎖が一部のクロマトイド小体上、または近接して局在していることを発見した。gypsy-P1はPiwiタンパク質によって負に制御されており、特にPiwiCに関してはクロマトイド小体に局在していることから、少なくともPiwiC陽性のクロマトイド小体は転移因子の負の制御にすることでゲノム情報の正確性を保つことが示唆された。
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