研究領域 | 多様性と非対称性を獲得するRNAプログラム |
研究課題/領域番号 |
23112710
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
北畠 真 京都大学, ウイルス研究所, 助教 (10321754)
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キーワード | リボソーム / 品質管理 / ユビキチン / RNA |
研究概要 |
真核生物のリボソームは、4本のRNAと80個のたんぱく質からなる超分子複合体である。この中でペプチド結合を形成する活性は25SRMAに担われており、活性中心PTCの重要塩基に一塩基置換があっただけでリボソーム全体の機能は失われてしまう。このような機能不全リボソームを認識して選択的に除去するような品質管理機構 (nonfunctional rRNA decay,NRD)が存在することが、近年になって明らかになってきている。本研究では25SrRNAの活性中心に変異が入った場合を材料に、出芽酵母を用いて25S NRDの分子機構を明らかにしようとしている。これまでに細胞内で機能不全リボソームが特異的にユビキチン化されること、このユビキチン化にはMms1とRtt101を含むE3リガーゼ複合体が関与していることを明らかにしている。本年度は機能不全リボソームが細胞の中でどのように認識されるかを詳細に明らかにすることを目的として、E3リガーゼの生化学的な精製に取り組み、得られた複合体を用いて機能不全リボソームのin vitroでのユビキチン化を示すことを目標として実験を行った。初めにMms1やRtt101のさまざまな位置に、アフィニティー精製のためのタグ配列を導入し、25S NRDに影響を与えないタグの付加が可能かどうかを検証した。リアルタイムPCRを用いた検証の結果、Mms1のC末にFlagタグをつけても機能不全25S rRNAの分解は全く影響を受けないが、Rtt101のN末やC末にさまざまなタグをつけた場合にはどの場合も25SNRDが顕著に阻害されることが明らかとなった。RNaseなどの混入を避けて純度の高いE3リガーゼを精製するためには、2つ以上のタグを導入する必要があると考え、さらにタグを付加する因子の探索を行った。その結果、これまで25S NRDへの関与が報告されていなかった、Crt10という因子が25SNRDに必要であることが明らかになり、さらにこの因子のC末にHAタグを付加することでE3リガーゼの効率的な回収が可能になることも明らかになった。現在までのところ、精製した機能不全リボソームに対してユビキチンを付加する活性が確認できているが、機能のある野生型リボソームにも同様のユビキチンが付加されてしまうことが観察されており、E3リガーゼに特異性を付与する何らかの因子が系から欠落していることが示唆される結果となっている。以上のin vitro系を改善する条件をさまざまに探りつつ、精製したE3リガーゼに結合するたんぱく質を質量分析で解析することで、E3リガーゼの全体像を明らかにすることを試みた。その結果、核内でDNA修復やストレス応答に関与する複合体などがこのE3リガーゼに安定に結合していることが明らかとなり、ストレス状況下におけるこのE3リガーゼの広範な役割が明らかになることとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ユビキチンリガーゼの生化学的な精製条件を確立し、目的としている無細胞系におけるユビキチン化の実験条件を検討する段階まで到達している。またユビキチンリガーゼに結合しているさまざまな因子を質量分析により明らかにし、25S NRDとDNA損傷修復の機能的連関について示唆するような興味深い結果を得ている。
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今後の研究の推進方策 |
ユビキチンリガーゼに結合する因子には、DNA損傷修復や、それに関連したクロマチンリモデリング因子が多数同定されてきている。このことは、一つのユビキチンリガーゼがリボソームの品質管理からDNAの品質管理まで、幅広く働いていることを示している。ユビキチン化をin vitroで再現する条件を詳細に検討する一方で、リボソームの成熟過程のそれぞれのステップを生化学的に精製し、ユビキチン化がリボソームの合成経路のどの部分で付加されるのかを詳細に解明したい。実際にユビキチン化が起こる生体内での段階を調べることで、機能不全リボソームを特異的に認識する仕組みについて詳しい示唆が得られると期待される。またそれらの情報を利用してin vitroユビキチン系を構築することで、想定した「仕組み」が正しいかどうかを実験的に検証することが可能になると考えられる。
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