RNAの非対称分配は様々な発生過程における非対称細胞分裂に重要な役割を果たしている。また、初期発生における胚葉の分離は、発生過程を理解する上で重要なテーマである。我々はホヤの胚を用いて、Not 転写因子をコードするmRNAの中胚葉割球への非対称な分配が、内中胚葉の分離に関わっていることを示してきた。ホヤ胚において内胚葉と中胚葉の分離は16-32細胞期にかけて起こる。この過程を詳細に解析したところ、次のようなことがわかった。1.細胞分裂前の内・中胚葉割球の核はNot mRNAを転写しながら、将来の中胚葉割球側に移動する。2.核膜が崩壊する頃にNot mRNAが中胚葉側の細胞質に検出されようになる。3.Not mRNAを置き去りにしたまま、形成中の分裂装置が細胞の中央へと戻っていく。4.細胞質分裂が起こりNot mRNAは中胚葉割球のみに分配される。本年度は、我々は核の移動方向を決めるのに重要である細胞極性について解析を行った。その結果、PI3KとPTENが核の移動に関与していることが明らかとなった。PI3Kは、Phosphatidylinositol bisphosphate (PIP2)をtriphosphate (PIP3)に変換するリン酸化酵素であり、逆の反応はPTENによって起こる。このシステムは、細胞分化・増殖や代謝、細胞移動、細胞骨格の再構築などに関与することが知られている。中・内胚葉をつくる親細胞の中で、PI3KとPIP3が将来の中胚葉側の表層(すなわち、核が移動していく先)に多く存在していることがわかった。PI3KやPTENのノックダウンや過剰発現は核の移動を阻害し、PIP3の局在を乱し、結果的にNot mRNAの非対称分配が失われた。よって、PI3KとPIP3が将来の中胚葉側の表層に片寄っていることで、そちらに向けて核が引き寄せられるということが判明した。
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