研究領域 | 多様性と非対称性を獲得するRNAプログラム |
研究課題/領域番号 |
23112716
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
谷 時雄 熊本大学, 大学院・自然科学研究科, 教授 (80197516)
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キーワード | スプライシング因子 / mRNA核外輸送 / ヘテロクロマチン / イントロン / セントロメア / 分裂酵母 |
研究概要 |
染色体のセントロメア領域は、分裂装置のスピンドルが結合する特殊なクロマチン領域で、分裂酵母では、その領域はセントロメア由来のnon-coding RNAから産生されたsiRNAが関わるRNAi機構を介してヘテロクロマチン化されている。我々は現在までの解析で、分裂酵母セントロメアのヘテロクロマチン形成にスプライシング因子Prp14pとmRNA核外輸送関連因子Ptr8pが必須であることを明らかにした。本研究では、セントロメアdg non-coding RNA内に見いだしたmRNA型イントロンと、ヘテロクロマチン形成に関わるsiRNA産生機構の関連を解明するため、イントロンを除いた変異型dg ncRNAを転写合成するminichromosome plasmidを作成して解析を行った。その結果、イントロンが無いと、minichromosomeにおけるヒストンH3K9のトリメチル化効率が有意に低下することを見いだし、スプライス部位の存在がヒストンのメチル化反応に影響を及ぼすことを明らかにした。また、dgイントロンのスプライシング効率を制御するシスシグナル配列が、イントロンの上流400塩基内に存在することを欠失変異解析により明らかにした。スプライシング効率を低下させて、RNAi関連因子結合の足場としてイントロンを機能させている可能性が考えられた。更に、セントロメアヘテロクロマチン形成にスプライシング因子が関わる機構が、生物種を越えて、ヒトなど高等生物においても保存されているか検証した。その結果、ヒト培養細胞において、siRNAでヒトPrp14相同因子をノックダウンすると、セントロメアとスピンドルの結合に異常が生じ、染色体分離が正常に進行しないことが判明した。高等動物においても、分裂酵母で観察されたスプライシング因子のセントロメアヘテロクロマチン形成への関与が考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
in vitroアッセイ系の確立は、問題点が多く当初予定した程は進展しなかったが、ヒトやマウスなどの高等動物において、siRNAを用いたスプライシング因子のノックダウンで分裂酵母と同様に染色体分離異常が生じる発見は、今後の研究にとって大きな成果となった。さらに、セントロメア dg イントロンのスプライシング反応効率を制御するシスエレメント配列の存在を明らかにした点も、今後の研究展開にとって大きな前進であった。以上の結果から、(2)の区分と自己評価した。
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今後の研究の推進方策 |
分裂酵母細胞抽出液を用いたsiRNA産生のin vitroアッセイ系確立は、残り1年間では大きな進展が見込めない可能性が高いので、高等生物におけるスプライシング因子と染色体セントロメアヘテロクロマチン形成の関連について、人的資源と労力を集中して解析を展開させる予定である。ヒトなどの高等生物において、セントロメアヘテロクロマチン形成にRNAiシステムやスプライシング因子が関わる機構については現在全く報告がなく、研究が進展すれば、RNA及びエピジェネテクス研究分野に対するオリジナリティの高い大きな貢献ができると考えている。
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