上皮細胞増殖因子(EGF)ファミリーは、ファミリーはI型膜タンパク前駆体として合成され、細胞外領域で切断されてより受容体活性の強い遊離型となる。これをエクトドメインシェディング (ここでは単にシェディングと呼ぶ)といい、様々な外的要因によって誘発される。今までEGFファミリーシェディング活性は、in vitro系を用いた細胞集団での評価が主流であり、かつそれぞれの活性を単独に解析するしかなかった。さらに生体内活性については、その経時的解析手法がないために生体内評価も困難であった。今回我々は、今までに明らかにしてきたシェディング後のHB-EGF前駆体カルボキシル基末端側ペプチド(CTF)が核膜へ逆行輸送される機序とsplit GFP技術を利用して蛍光シグナルで時空間的に腫瘍細胞のシェディング活性を可視化することを目指したが、十分な蛍光シグナルを得ることができなかった。そこで次案の戦略として、HB-EGF前駆体の細胞膜内外に2つの異なる波長の蛍光タンパク質を挿入する(このプローブをFluhembと呼ぶ)ことでシェディング前後のこれら蛍光タンパク質から発する蛍光シグナル強度比を算出し、それよりシェディングを可視化する方法を検討した。その結果、強力なシェディング誘発剤のひとつであるホルボールエステル刺激によって細胞株に導入したFluhembの蛍光シグナル比が変化し、それが経時的に観察できることが確かめられた。この変化はホルボールエステルに限らず、従来シェディング誘導因子として知られている増殖因子などの生物活性因子や細胞剥離といった物理的刺激でも認められ、HB-EGF前駆体シェディングの様子を再現、可視化できていると考えられた。この技術によって今まで不可能であった生体内でのEGFファミリーシェディングの経時的観察も可能になると思われる。
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