1.変異型Raichu-Rasを用いたイメージング 匂い刺激に応答したRaichu-Rasの蛍光変化がRasの活性化を正しく表していることを明らかにするために、変異型のRaichu-Rasを用いてイメージングを行った。用いたのは、RafのRas結合部位が除かれたタイプのものや、変異によりRasが活性化しないタイプのものなどである。それらの変異型Raichu-Rasでは、匂い刺激を与えても蛍光変化が起きなかった。よって、匂い刺激に応答したRaichu-Rasの蛍光変化はRasの活性化を反映したものであると考えられる。 2.Rasの活性化におけるジアシルグリセロール(DAG)シグナルの役割 我々は以前、線虫の嗅覚神経においてRasのGEFとしてRGEF-1(RasGRP)が機能していることを見出したが、最近になってRGEF-1はジアシルグリセロール(DAG)によって制御を受けていることが別のグループにより報告された。そこで、DAGシグナルの重要性を明らかにするために、DAGシグナルに異常のあるegl-8変異体や、egl-30変異体でRasの活性化を観察した。その結果、これらの変異体ではRasの活性化が著しく低下することが分かった。よって、Rasの活性化には匂いシグナル伝達経路だけでなく、DAGシグナル経路も重要であることが示唆された。 3.嗅覚神経におけるRasの活性の嗅覚系における働き 嗅覚神経におけるRasの活性が、嗅覚神経の下流にある介在神経の活性を制御している可能性について検証を行った。その結果、Rasの恒常活性化型変異体let-60(gf)では、介在神経の活性化が見られなかった。一方、Rasの機能低下型変異体let-60(lf)では、介在神経の活性が不安定になることが観察された。よって、嗅覚神経におけるRasシグナルは下流の介在神経の活性を制御していることが示唆された。
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