線虫 C.elegans の卵黄成分は哺乳類の低密度リポタンパク質(LDL)に類似のコレステロールを多く含むタンパク質脂質複合体である.卵黄やLDLは受容体を介したエンドサイトーシスにより細胞内に取り込まれ,その基本メカニズムは線虫と哺乳類で非常によく保存されている.線虫の生育中の卵母細胞が卵黄を活発に取り込むことに注目し,線虫遺伝学を利用してこの過程に関わる新規因子の探索を行ったところ,哺乳類にも高度に保存された低分子量 GTPase・RAB-35/RME-5 とその活性化因子 RME-4 が卵黄受容体のリサイクリング経路に関与することを見出してきた.さらに,エンドサイトーシスに異常を示す新たな線虫変異体の同定に成功した.この変異体はでは受容体を介した卵黄の取り込みに特異的に異常を示し,液相エンドサイトーシスは正常であった.原因遺伝子の同定を進めたところ,第5染色体左腕にマッピングされた.現在数個の遺伝子まで絞り込んでおり,相補実験によって原因遺伝子の確定を行っている.また,LDL 受容体ファミリーである卵黄受容体が,生育中の卵母細胞では活発なリサイクリングによって何度も再利用されるのに対し,受精直後の胚ではリソソームに送られすみやかに分解される現象を見出した.受精後に輸送の方向を変化させるシグナル経路を検討したところ,受精後の細胞周期の進行に必須な Anaphase promoting complex (APC)の下流で制御されていることを明らかにした.また,正常な分解にはユビキチン化の制御が関与することも見出した.これらの結果から,発生の時期特異的に受容体のユビキチン化を制御し,それによってコレステロールの取り込み活性を調節するシグナル経路が存在することが明らかとなった.
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