公募研究
B細胞表面のBCRは抗原などにより架橋されると速やかにエンドサイトーシスされ、エンドソーム/リソソームで抗原は分解される。しかし、エンドソーム/リソソームでBCRが何からの機能を発揮するかは不明である。エンドソームのBCRが実際にシグナル伝達を行なっているかを明らかにするため、BCRシグナル伝達にともなって細胞膜にリクルートするSLP65/BLINKと蛍光タンパクの融合タンパクをB細胞株で発現させた。このB細胞株でBCRを架橋すると、SLP65/BLINKはBCRのエンドサイトーシスにともなってエンドソームに局在した。この結果は、エンドソームのBCRがシグナル伝達に関わることを示唆する。また、BCRのユビキチン化についての解析を行い、BCR複合体のうちIgα/β分子がBCR架橋によりユビキチン化を受けることを明らかにした。しかし、B細胞を活性化させる刺激と死滅させる刺激との差異については明確な結果は得られなかった。BCRシグナル伝達におけるエンドサイトーシスの役割を明らかにするために、エンドサイトーシスされた分子の細胞内輸送に関わるRab5やRab7などのドミナントネガティブフォームをB細胞株に過剰発現させたところ、エンドサイトーシスの若干の遅延は見られたもののBCRのエンドソーム/リソソームへの輸送を阻害することはできなかった。一方、BCRがとりこまれたエンドソームの機能的な解析から、エンドソームにおいて活性酸素種(ROS)の産生がおこっていることが明らかとなった。そこで、研究期間を延長してエンドソームで産生されるROSの役割の解析を行なった。その結果、BCR架橋したB細胞のROS産生をN−アセチルシステインなどを用いて阻害すると、細胞の活性化が減弱した。この結果はエンドソームに局在するBCRがROS産生を介して細胞の活性化に関与することを示唆するものである。
2: おおむね順調に進展している
正常B細胞やB細胞株を用いてBCRのエンドサイトーシスを解析する実験系を確立し、BCR架橋後BCRがエンドサイトーシスされ、エンドソーム/リソソームで長時間とどまることを明らかにし、さらにSLP65/BLNK融合タンパクの発現によりエンドソームに局在するBCRがシグナル伝達に関わることを示唆する知見を得た。エンドソームでのBCRの機能をさらに明らかにするために、エンドソームやリソソームへの輸送に関わるCIN85やRab5およびRab7のドミナントネガティブフォームの発現を試みたが、CIN85のドミナントネガティブフォームの十分な発現は得られず、Rab5およびRab7のドミナントネガティブフォームの発現でもBCRのエンドソーム/リソソームへの輸送を阻害することはできなかった。しかしながら、BCRが存在するエンドソームでROS産生があることが明らかとなったので、この知見を用いてエンドソームに局在するBCRがROS産生を介してB細胞の活性化に関わることを示し、エンドソーム内のBCRの機能的重要性を明らかにするという初期の目的を達成することができた。
本年度エンドソームに存在するBCRの機能的な重要性を明らかにすることができたので、BCRのエンドソームへの輸送や局在のメカニズム、シグナル伝達での役割を解明するとともに、本年度ROSがエンドソームのBCRの機能で重要であることを明らかにしたので、ROSのシグナル機能の解析を行なう。これらの解析により、本研究の目的であるエンドソームでのBCRの機能解明を行なう。まず、ROSのシグナル機能の解析を行なう。抗IgM抗体で刺激したB細胞をNアセチルシステイン等で処理してROS産生を阻害し、種々のシグナル分子の活性化が変化するかを明らかにする。さらに、ROS産生のメカニズムを解明するために、NADPH oxidase阻害剤等でB細胞を処理し、ROS産生やB細胞の活性化を解析する。また、BCRの細胞内輸送やエンドソームでの局在のメカニズムの解明を行なうため、B細胞株に蛍光タンパクとRab5, Rab7, Rab11などとの融合タンパクを発現させ、抗IgM抗体の局在を解析するとともに、抗IgM抗体局在部位でのpHを測定する。次いで、エンドソームでの滞留にROSやBCRシグナル伝達が関与するかを明らかにするために、B細胞をROSやシグナル分子の阻害剤で処理した際に抗IgM抗体の細胞内局在が変化するか解析する。
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すべて 雑誌論文 (11件) (うち査読あり 11件) 学会発表 (13件) (うち招待講演 7件)
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