研究概要 |
我々は、多種多様な機能に関連する膜脂質であるフォスファチジルイノシトール4,5-2燐酸[PI(4,5)P2]の細胞膜上のナノ局在を解明するために、凍結割断レプリカをホスホリパーゼCδ1のPHドメインで特異的に標識する方法を開発し、種々の培養細胞の解析に用いてきた。この方法では化学固定や人工プローブの発現などが必要でないため、どのような細胞にも応用でき、しかも定量的な解析が可能である。これらの利点を生かし、動物体内の生理的条件で分化した細胞の解析に応用する方法を開発した。ラット体内の膵外分泌部の腺房を取り出し、加圧凍結装置(HPM010)を用いて加圧凍結し、凍結割断レプリカを作製した。凍結割断レプリカをトリプシン、DNaseI、SDSで順次処理することによって脂質標識に適した標品を得て、PI(4,5)P2を標識、解析した。膵外分泌細胞は高度に分化した単層上皮細胞であるが、頂部、タイト結合部、側・基底部の細胞膜でのPI(4,5)P2密度には違いがなかった。一方、ギャップ結合部では、周囲の細胞膜よりも有意に高いPI(4,5)P2密度が見られ、チャネル開閉との関連が示唆された。膵外分泌細胞の細胞内には分泌顆粒、ゴルジ装置、小胞体など高度に発達したオルガネラが観察されたが、これらの限界膜には有意のPI(4,5)P2標識はなかった。これらの結果のうち、細胞膜の所見は従来、培養細胞を用いた実験で報告されていたものと異なり、またギャップ結合への集中は初めて明らかになった結果である。PI(4,5)P2の機能的意義を明らかにする上で、動物体内の細胞を解析することの重要性が示唆された。
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