オートファジーは飢餓などのストレスに対する応答に留まらず、変性蛋白質の除去やオルガネラの品質管理など様々な重要な機能を持つことが明らかになってきた。オートファジーの分子機構はATG蛋白質の機能解析を基軸として急速に解明されつつあるが、オートファジーに必須の構造である隔離膜がどこでどのようにしてできるのかという謎はまだ解かれていない。我々は隔離膜形成に必須の膜脂質であるイノシトール3燐酸(PI3P)の微細局在をナノレベルで解明することを通じてこの問題にアプローチしてきた。これまでの研究により、急速凍結・凍結割断レプリカ標識法(QF-FRL法)を用いてPI3Pを特異的かつ定量的に標識する方法を確立した。プローブとなるリコンビナント分子の1アミノ酸を置換した変異体、あるいはPI3Pを欠損する酵母変異体などの陰性対照により標識特異性を確認した。この方法で酵母および哺乳類細胞のオートファゴソーム、オートファジックボディーなどのPI3P分布を解析したところ、酵母細胞ではPI3Pの内葉・外葉のトポロジーが哺乳類細胞と異なり、従来の想定とは一致しないことを見出した。さらにPI3P加水分解酵素を欠損する酵母細胞を作製して解析し、上記のPI3Pトポロジーの形成とオートファジーの成立にPI3P加水分解酵素の作用が関与することを確認した。これらの結果は他の方法では原理的に得ることが極めて困難であり、隔離膜形成機構の解明に重要な新知見である。
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