歯周病菌は歯肉上皮細胞や歯肉繊維芽細胞に侵入し、感染の進行と慢性化を図る。一方、宿主細胞はエンドサイトーシス経路などのメンブレントラフィック機構を用いて侵入細菌を分解する。この「細菌 vs メンブレントラフィック」の戦いの転機が歯周病の発症において大きな影響を与えている。 メンブレントラフィック機構のひとつであるオートファジー(自食作用)とは、細胞の中を掃除することで病気が起こるのを防ぐ仕組である。細胞の中に壊れたミトコンドリアや古いタンパク質などが溜まったり病原体が侵入したりすると、細胞の健康が損なわれ、その結果アルツハイマー病、発がん、心不全、糖尿病、感染症、炎症など多岐にわたる病気が起こる。それを防ぐために細胞はオートファジーという仕組みを持っている。オートファジーを担うオートファゴソームは、膜で包まれた球形のオルガネラであり、必要に応じて細胞の中に現れ、細胞にとって有害な上述のものを取り込んで分解する働きを持つ清掃マシーンのような存在である。どこからともなく現れ役目を終えると消えるため、どこで造られているのかがこれまで40年近く論争の的になっていた。 最も強力な歯周病菌でもあるP. gingivalis は細胞質内へと侵入しオートファジーにより捕獲され分解・殺菌される。我々はオートファゴソームの形成起源について検討を加えた。その結果、オートファゴソームが別のオルガネラであるミトコンドリアと小胞体が接触する場所で造られていることを見出した。さらに、歯周病菌は細胞のリサイクリング経路をハイジャックすることにより細胞外に脱出し、隣接細胞に再侵入することにより組織内での感染を拡大させていることも明かとした。
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