研究領域 | 細胞内ロジスティクス:病態の理解に向けた細胞内物流システムの融合研究 |
研究課題/領域番号 |
23113720
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
井垣 達吏 神戸大学, 医学研究科, 特命准教授 (00467648)
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キーワード | がん / エンドサイトーシス / 遺伝学 / ショウジョウバエ / Ras |
研究概要 |
本研究は、ショウジョウバエ腫瘍悪性化モデルを利用し、エンドサイトーシス制御破綻が引き起こすがん悪性化機構の基本原理の解明を目指すものである。ショウジョウバエ複眼原基の上皮組織において、遺伝的モザイク・クローン法によりがん原性Ras(RasV12)を発現する体細胞クローンを誘導すると、これらの変異細胞クローンは過剰に増殖して腫瘍を形成する。このRasV12誘導性腫瘍は浸潤性や他器官への転移能を示さないことから、良性腫瘍と見なすことができる。研究代表者らのこれまでの予備的実験により、このRas誘導性良性腫瘍に対して一連のエンドサイトーシス制御遺伝子の突然変異を導入すると変異細胞が浸潤・転移能を示すようになることが分かっている。この浸潤・転移能はエンドサイトーシス制御遺伝子の変異のみでは付与されないことから、Rasシグナルの活性化とエンドサイトーシス制御破綻が協調することで上皮の腫瘍悪性化が引き起こされると考えられる。興味深いことに、エンドサイトーシス制御遺伝子rab5の機能を欠失したRas活性化細胞(RasV12/rab5^<-/->細胞)は、変異細胞自身が浸潤・転移能を獲得するだけでなく、その周辺細胞の増殖を促進することが分かっている。このことは、Rasシグナルの活性化とエンドサイトーシス制御破綻が同時に起こることで、がん微小環境の構築、さらにはそれを介した組織レベルの腫瘍悪性化が引き起こされることを示唆している。平成23年度は、RasV12/rab5^<-/->細胞が浸潤・転移能を獲得する機構、および周辺細胞の増殖を促す機構の遺伝学的解析を進めた。その結果、RasV12/rab5^<-/->細胞内においてがん抑制経路Hippo経路が抑制され、これによりUnpaired(ショウジョウバエIL-6ホモログ)の発現誘導が引き起こされていることが明らかとなった。RasV12/Unpaired発現細胞クローンは浸潤・転移を示すことから、Unpairedの発現誘導が本腫瘍悪性化に重要な役割を果たしている可能性が考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、(1)エンドサイトーシス制御の破綻がRas誘導性の良性腫瘍に浸潤・転移能を付与する機構、および(2)これら悪性化した腫瘍細胞が周辺の正常細胞の増殖を促進する機構を明らかにすることを目的とする。本年度は、良性腫瘍の浸潤・転移能獲得にHippo経路を介したUnpaired発現誘導が重要な役割を果たしている可能性を見いだすことができたため、おおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
エンドサイトーシス制御破綻を起こしたRas活性化細胞はHippo経路を介してUnpairedの発現誘導を起こすことが分かったため、今後はUnpairedの浸潤・転移能獲得における役割を明らかにするとともに、RasV12/rab5^<-/->細胞内におけるHippo経路の抑制機構、およびそれを介したUnpairedの発現誘導機構を明らかにしていく。また、RasV12/rab5^<-/->細胞が周辺細胞の増殖を促す機構、およびそれが変異細胞の浸潤・転移能に及ぼす影響を明らかにしていく。
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