昨年度までの研究実施により,神経細胞内のAPP-GFP輸送画像について,画質改善,粒状物質の検出,粒状物質の追跡の手法を開発し,それらを用いることで,人間の目視による精度に近いレベルの結果が得られることを実証した.今年度は,その精度をさらに高めるための改良を行った.検出については,これまでの学習ベースではなく,ガウシアンフィッティングに基づく方法も導入した.追跡アルゴリズムについては,動的計画法に基づくマッチングアルゴリズムの改良に加え,安定結婚アルゴリズムに基づく方法,および整数線形計画法(ILP)に基づく方法を実装した.研究の進捗については,研究協力者(北大薬学研究院鈴木利治教授)との綿密な議論を行った. 同じAPP-GFP輸送については,動画像中の多物体追跡という上記の方法論以外にカイモグラフィーによる方法も検討した.後者は3次元時空間ボリュームを2次元平面(すなわち1枚の画像)に投影したものであり,複数の物体の動きが同画像上での複数の軌跡として表現される.このカイモグラフィーについて,背景雑音の低減や,モルフォロジ技術の導入による軌跡の先鋭化,また投影により失われた残り1次元情報をカラーグラデーションとして表現する新しいカイモグラフィーの開発を行った. なお,本新学術領域研究に端を発したバイオイメージインフォマティクス研究について,APP-GFP解析に留まらず,国内10弱のバイオ研究グループとの共同研究を開始した.いずれにおいても,APP-GFP輸送画像解析で利用した最適化に基づくアプローチと同様,できるかぎり高精度・安定な手法を利用し,自動定量化・解析ソフトウエアを開発した.
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