研究領域 | 細胞内ロジスティクス:病態の理解に向けた細胞内物流システムの融合研究 |
研究課題/領域番号 |
23113729
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研究機関 | 独立行政法人国立がん研究センター |
研究代表者 |
山口 英樹 独立行政法人国立がん研究センター, 研究所, ユニット長 (10345035)
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キーワード | がん / 転移 / 浸潤突起 / 膜輸送 |
研究概要 |
浸潤突起は浸潤性癌細胞により形成される細胞膜構造であり細胞外基質を分解する活性をもつ。これまでの研究から、浸潤突起が癌浸潤・転移において重要な役割を果たすことが明らかになっている。本研究では浸潤突起形成における細胞内ロジスティクス(構成分子の輸送、補給、再利用や不要分子の消化などを制御するシステム)の分子基盤を明らかにすることを目的とした。特に当研究分野でそのがん進展における重要性を明らかにし、癌治療標的分子として注目されているCDCP1について、浸潤突起形成及び細胞内ロジスティクスとの関連性について検討を行った。CDCP1は膜貫通ドメインを持つSrcキナーゼの基質であり、癌において発現と予後悪化に強い相関が見られ、癌細胞の生存、運動、浸潤、転移能を制御する。浸潤転移能の高いヒト乳癌細胞株MDA-MB-231細胞において、siRNAによるCDCP1の発現抑制を行ったところ、浸潤突起による細胞外基質の分解が顕著に抑制された。またマトリゲル浸潤能についても同様に抑制された。浸潤突起におけるCDCP1の局在を検討したところ、中心となるアクチン細胞骨格には局在しないが、その周囲に近接して存在する膜小胞に局在することが明らかになった。この膜小胞はゴルジ体マーカーとは一部共局在がみられたが、初期エンドソームマーカーとは共局在していなかった。一方、カベオリンや脂質ラフトマーカーと強く共局在していたことから、CDCP1は主に脂質ラフト/カベオリン小胞に存在すると考えられた。従って、CDCP1はこのコンパートメントに含まれる機能分子の細胞内輸送に関与し、浸潤突起による細胞外基質分解を制御している可能性が示唆された。また本研究課題と関連する成果として、膜輸送を含め様々な細胞機能を制御するPI3キナーゼシグナル伝達経路が浸潤突起形成を制御することを明らかにした。さらに乳がん転移における浸潤突起の役割について論文を報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究計画では、浸潤突起における小胞輸送システムの解析、浸潤突起形成と小胞輸送におけるCDCP1の機能解析を行う予定であった。実際に、siRNAを用いた解析から浸潤突起形成におけるCDCP1の機能を明らかにし、浸潤突起周辺に存在するカベオリン小胞に局在することを明らかにした。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き浸潤突起形成におけるCDCP1の詳細な機能解析を行う。CDCP1が存在するカベオリン小胞の輸送と浸潤突起形成との関連性、CDCP1の局在化機構や相互作用するタンパク質の解析を行う。またマウスモデルと生体内イメージング法を用いて、CDCP1の乳がん転移における役割についても検討を行っていく。
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