がんは日本人の死亡原因の1位であり、転移がその主な要因である。癌細胞が浸潤・転移するためには、物理的障害となる細胞外基質を分解する必要がある。浸潤突起は浸潤性癌細胞により形成される細胞膜構造であり細胞外基質を分解する活性をもつ。これまでの研究から、浸潤突起が癌浸潤・転移において重要な役割を果たすことが明らかになっている。本研究では浸潤突起形成における細胞内ロジスティクスの分子基盤を明らかにすることを目的とした。特に当研究分野でがん進展における重要性を明らかにし、癌治療標的分子として注目されているCDCP1について機能解析を行った。CDCP1は膜貫通ドメインを持つSrcキナーゼの基質であり、癌において発現と予後悪化に強い相関が見られ、癌細胞の生存、運動、浸潤、転移能を制御する。ヒト乳癌細胞株MDA-MB-231細胞において、siRNAによるCDCP1の発現抑制を行ったところ、浸潤突起による細胞外基質の分解が顕著に抑制された。CDCP1は浸潤突起の中心となるアクチン細胞骨格ではなく、周囲に近接して存在する、脂質ラフトやカベオリンを含む膜小胞に局在していた。さらにCDCP1は浸潤突起の細胞外基質分解活性を担うMT1-MMPと結合し、共に膜小胞に局在していた。CDCP1の発現抑制により、MT1-MMP依存的な細胞浸潤能や、浸潤突起へのMT1-MMPの集積が阻害された。従って、CDCP1はMT1-MMPの脂質ラフト及びカベオリン小胞を介した細胞内輸送に関与し、浸潤突起による細胞外基質分解を制御している可能性が示唆された。
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