研究領域 | 感染・炎症が加速する発がんスパイラルとその遮断に向けた制がんベクトル変換 |
研究課題/領域番号 |
23114501
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
大場 雄介 北海道大学, 大学院・医学研究科, 准教授 (30333503)
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キーワード | 微小環境 / 蛍光イメージング / 3次元培養 |
研究概要 |
本研究では、RANKLによる口腔扁平上皮癌細胞の悪性化機構を経時的に観察するため、口腔微小環境を再構成した培養系を構築することが目的のひとつである。本年度は、人工皮膚培養にも用いられる扁平上皮細胞を用いた器官型培養法(Organo typic culture)を応用し、口腔組織内の細胞外基質組成を模倣したゲル上での3次元培養系を構築した。本系におけるゲルは、下面のみが培地と接し他部は気相に接している。このゲル上に口腔扁平上皮癌細胞を7~14日程培養することで、扁平上皮癌としての組織学的な特徴を再現することができた。また、このゲルを共焦点蛍光顕微鏡で観察するとで、扁平上皮癌細胞集団がゲル上を遊走していく様子を捉ることにも成功した。今後本培養系において間質細胞をゲル中に包埋する培養法を組合せ、腫瘍微小環境を忠実に再構築し、腫瘍悪性化に関与する腫瘍-間質細胞間相互作用(細胞外マトリクスの再構成、血管新生、免疫寛容等)の経時的な変化を捉えたい。そのため、各間質細胞(線維芽細胞、血管内皮細胞、免疫系細胞)のマーキングには、我々が独自に本年度作製した蛍光タンパク質発現ベクターライブラリーを用いる。現在までに6種の蛍光タンパク質(Sirius、SECFP、Venus、tdTomato、TFP650、Keima)と4種の細胞内のタンパク質ないしは局在化ペプチド(actin、FAT、H2B、KRas-CAAX)を融合した蛍光タンパク質発現ベクターを計24個作製した。これらを有効に活用い、生体内の腫瘍組織で生じている細胞間相互作用のダイナミクスを観察すると主に、RANKLによる口腔扁平上皮癌の悪性化機構を解明する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
口腔扁平上皮癌の組織学的特徴の一部を再現し、かつライブイメージングが可能な3次元培養法を確立し、この系を用いてRANKLによる口腔癌細胞集団の挙動に変化が生じることを明らかにできた。これらの進捗は当初の計画通りである。また、今後この実験系で用いるための、蛍光タンパク質発現ベクターについても当初の計画通りのスペクトル数とオルガネラの数を達成することが出来、これも計画通り進んでいる。いっぽうで、これらのベクターは蛍光タンパク質や融合タンパク質遺伝子を容易に組み替えられる様に工夫してあるため、将来的に着目したいオルガネラや用いたい波長の蛍光タンパク質が新たに出現した際にも柔軟に対応できるので、今後の研究遂行がスムーズに進むことが期待される。これは本年度計画自体の進捗を変化させるものでは、来年度以降の計画遂行に貢献するものと考える。
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今後の研究の推進方策 |
本年度確立した培養系と、別の3次元培養法である包埋培養法を組合せ、間質細胞による細胞外マトリクスの再構成、癌細胞浸潤を同時に可視化し、それらの分子機序を明らかにする。特にRANKLが関与する分子メカニズムについては詳細に検討する予定である。一方で、構築したベクターを用いて、蛍光タンパク質安定発現細胞を樹立し、蛍光観察下における各細胞の標識と、細胞挙動の微細な様式を観察する。まず、細胞膜(KRas-CAAX)と核(H2B)に局在する蛍光タンパク質を発現した細胞を準備し、細胞集団内での膜運動性と核の蛍光シグナルを用いた細胞運動性をトラッキングを同時に行い、3次元環境下における癌細胞の運動性とそれに対する間質細胞や細胞外基質の影響を明らかにする。
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